老いる貨幣
1929年生まれ(1995年没)のドイツの児童文学作家、ミヒャエル・エンデが表した、『モモ』は子供が読んでも、大人が読んでも面白い。人の話をよく聞く不思議な才能を持つ女の子、モモの周りには、多くの子供と大人が集まり、どこにでもあるものから、新しい遊びの種を見つけ、毎日を楽しく遊んでいた。その平和な村に突如「時間泥棒(灰色の男)」がやってきて、人々から時間を奪っていく。子供も大人もいつしか去ってゆき、自分だけのゆったりとした時間の流れを失っていく。その、時間を巧みに奪っていく「灰色の男」と勇敢に戦い、彼らから時間を取り戻していく物語で、1973年に世に出された。この寓話の中で語られる社会は、まるで現代社会の、大人、子供の姿そのものである。時間の持つ意味と価値を寓話という手法を使いながら、人にとって最も貴重な多くの時間を奪われた現代社会の到来を予言している。現代に生きる大人ほど、切実にその意味を、実感をもって受け止め、語られる言葉の節々にはっとさせられるだろう。
そのエンデは、最後まで人々にに大きな問いを投げかけた。お金の問題である。現代社会は「お金」の病にかかっているという、「ファンタジーとは現実から逃避したり、おとぎの国で空想的な冒険をすることではありません。ファンタジーによって、私たちはまだ見えない、将来起こる物語を眼前に思い浮かべることができるのです。私たちは一種の予言的能力によってこれから起こることを予測しそこから新たな基準を得なければなりません。」とミヒャエル・エンデは言う。
加速する変化
1. 変化の速さに立ち止まる暇もない
アメリカの世界的なジャーナリストで、ピュリッツァー賞を3度受賞した、トーマス・フリードマンは、近年の著書「遅刻してくれてありがとう」で、私たちが歴史の根本的な転換点に立ち会っていることを気付かせてくれる。著者は今立ち止まって、もっと深く考える必要があると決意し、この著作を3年間かけて世に出した。3年ほど前に刊行されこの著作は、全米でベストセラーとなった。この途方もないスピードで変化する世界の現状を理解するうえで、多くの示唆に富んだ鋭い考察が詰まっている。
テクノロジー発展が驚異的なスピードで世界の人々に及ぼす影響、ムーアの法則に代表される、その変化のスピードと広範囲な影響を超新星爆発(スーパーノバ)に例え、AIが人類の知能を凌駕する特異点(シンギュラリティ)が来るとし、気候変動・地球温暖化の深刻な影響が、移民・難民問題を引き起こす遠因となっていることを歴史的に明らかにし、人口増加、食料不足、宗教・民族対立、脱炭素エネルギー問題が世界規模で広がり、格差の拡大と貧困の固定化、中東をはじめとする地政学的にも非常に困難な様相を呈する世界の政治経済社会の現状を、実際に現地のベイルート特派員として、ニューヨーク・タイムズのエルサレム支局長として、自ら体験して書き記した考察には、多くの人の心を動かす説得力がある。
科学技術の発展が及ぼす人々への変化を「スーパノバ」(超新星爆発)と形容し、そのスピードは世界の人々を巻き込んで益々加速しているが、ごく一部の人を除き、誰もついていけないというのが現状ではあるまいか。世界的な規模で企業活動を行うグローバル企業では、その企業集団と所属する個人に対し、その変化の流れに必死で追いつき、変化に対応することを求め続けるが、個人の生活者レベルでは非常に困難が伴う。企業で働く人々は立ち止まることも許されない。
危機への対応
危機の本来の意味
危機には二つの側面がある。危険(リスク)と機会(オポチュニティ)である。危機は危険と機会を合わせ持つ概念であり、この二つは表裏一体となり、密接に結びついている。
例えば、起業というリスクを取らなければ、自己実現の利益は決して手に入らない。また、古より、「災い転じて福となす」、「塞翁が馬」と言う諺もある。危機対応への取り組みが未来の自分のあり方、存在を決定づける。
ジャレド・ダイアモンド氏の著作となる「危機と人類」は、国家的危機への対応を主として取り上げている。フィンランド、近代ニッポン、チリ、インドネシア、ドイツ、オーストラリアを取り上げ、その危機の本質を、言わば、国の置かれた政治・経済・社会環境、国民の置かれた実態、過去の歴史的経験、ナショナルアイデンティティ、指導者の問題、危機克服のために傾注した努力とその過程を明らかにし、そこから歴史的な教訓を汲み取ろうとする者にとって、意義のある深い理解と洞察を与えてくれる、類い希な著作である。
冒頭に取り上げられた現在のフィンランドは、科学技術と工業力で世界に知られており、国民一人当たり平均所得もドイツ、スウェーデンと肩を並べている。広大な陸続きの国境を有するソ連との1939年からの「冬戦争」「継続戦争」は過酷を極め、フィンランド国民は多大な犠牲を強いられた。当時のフィンランドは人口370万人、対するソ連は1億7000万人、軍事力も圧倒的な差が存在したが、他国の支援も期待できない状況のなかで、占領を退け、最終的に独立を守った。その後も危機は続くがその危機を乗り越えた、強烈なナショナルアイデンティティ、その体験と自信・誇りは、今日に至るまで粘り強い外交交渉力を遺憾なく発揮させた。歴史的にも稀有な、フィンランドの国家的危機対応の具体実例が、深い分析とともに語られるが、今日のフィンランドを築き上げたその過程と帰結的要因を、世界の各地の各時代の象徴的で、特筆すべき国々の歴史から読み解き、そこから普遍的な法則性を導き出し、一般化し、体系化するその著述力には、目を見張るものがある。
ジャレド・ダイアモンド氏は、現在はカリフォルニア大ロサンゼルス校の地理学の教授であるが、経歴は多彩であり、現代世界を代表する学者の一人であり、幾つもの言語を自由自在に操り、多くの国に赴き、様々な経験をベースに鋭い歴史観察とその背後にある基本的な構図を明らかにし、支配的な要素を抽出して、わかりやすく的確な表現で、読者に語りかけてくれる。
能力主義と格差の拡大
能力主義(メリトクラシー)とは、則ち学歴主義であり、それは現状の大きな所得格差を固定化する役割を果たす、現代社会の支配的な考え方となっている。機会均等と社会の流動性を求める多くの人々の前に立ちはだかる大きな障壁となっている。
アメリカの著名な政治哲学者マイケル・サンデル氏による著書「実力も運のうち 能力主義は正義か」で、分断されたアメリカの政治経済の要因分析がなされているが、学歴に根差した能力主義が一つの大きな要因であると論じている。また「貧しき者は益々貧しく、富める者は益々富む」の現代版の経済構造を、巧みに覆い隠す役割と、「才能・能力と本人の努力さえあれば誰もが社会の上流に上っていける」という、アメリカンドリーム的な考え方を維持する上でも役立っている。現代のアメリカの政治経済社会において大きな影響力を持つ、有名私立大学出身者の親の所得は言うまでもなく、圧倒的に高所得層が占めている。4年間にかかる学費は余りにも高い。アメリカ連邦準備理事会FRBの発表によると、米国の2019年の家計所得中央値で大卒が96000ドル、高卒が46000ドルと、純資産もそれぞれ30万8000ドルと7万4000ドルと、無視できない違いが表れている。
マイケル・サンデル氏は、能力主義とは何を指すのか、その歴史的、宗教的背景を追いつつ、能力主義が広く浸透した資本主義社会と、そこに潜む看過できない機会均等と社会の流動性を阻む不平等の本質を鋭く指摘している。アメリカと欧州を比較すれば、むしろアメリカはヨーロッパ諸国より社会の流動性は低いにもかかわらず、国民の社会流動性に対する認識は、実際よりも肯定的な評価を与え、逆に欧州は実際よりも低く評価しており、社会階層の上下の分断と固定化がさらに進んでいると考えている。日本をはじめとするアジア地域の多くの国々でも、程度の差こそあれ、傾向は同じである。
不動産ビジネスの変化
テレワーク・リモートワークが普及しだした今 、 今後の不動産ビジネスはどういう影響を受け変貌していくのだろうか。
働き方の変化
サラリーマンの仕事の仕方、働き方が変化している。営業推進、新規顧客開拓、取引先との交渉、内部会議には直接対面による意思の疎通が欠かせないと思われてきたが、それもオンラインのズーム、スカイプなどでやろうという流れが一気に生まれてきている。最初は接続、設定、操作に戸惑うが、やってみるとかなり使える、出来るじゃないかという評価が多い。現在のコロナ禍で一気に広がりをみせている。仕事全体における通勤・移動時間の短縮よる業務の効率化、無駄な会議の見直し、時間の有効活用、交通費等の経費削減、時間外労働の負担の軽減、育児や介護と仕事の両立、生活との調和が高まるなど、大いに効果を発揮しているという。
しかし、マイナス面も指摘されている。コミュニケーション不足、生活リズムの乱れ、職場の仲間との何気ない雑談によるストレス発散ができない、気軽に情報伝達・報告・連絡・相談ができない、すべてに決められたフォーマットによる報告が必要となった、労働時間管理が難しい、業績評価が計数による画一的な表面的な判断となる、などである。

