2026年 混迷を深める世界の行方
世界の大国を取り巻く地政学の潮流
ロシアのウクライナ侵略とアメリカとイスラエルによる一方的なイラン攻撃により世界情勢は歴史的な転換点・激動期を迎え、ヨーロッパの一部の知識人が世界大戦を危惧するような国際情勢の先行き不安と混迷する状況が深まっている。
地政学リスクの表面化は軍備拡張・軍事予算の肥大化をもたらし、国の財政を圧迫し、国民生活を圧迫し、安定的な計画経済政策の立案実行を妨げる。世界の至る処で多くの人々が低所得・劣悪な環境と食料難に直面し、紛争により故郷を追われ難民化し、生活の窮乏化に喘いでいる厳しい現実がある。
国際的なエネルギー資源と資源開発競争、中国のレアメタルの供給制限による経済的影響力の行使・選別誘導、世界が最も恐れていたホルムズ海峡の封鎖等に見られる石油資源とナフサなどの派生主要産品サプライチェーンの破壊による世界経済の混乱、米中の分断に端を発した経済のブロック化により、優勝劣敗の勢力地図の変化と新たな合従連衡を呼び起こし、世界の政治経済地図は冷戦時代、さらには大戦前夜に逆戻りし、世界経済の高度成長は見込めず、低成長化、減速化し、不透明さを深めている。
米国によるベネズエラ攻撃に次ぐ、イランの軍事施設・石油関連施設・核施設に対する半年に及ぶ数次の攻撃は世界に衝撃を与えた。国連の安保理などの紛争抑止力は無きに等しく、石油・天然ガスなどのエネルギー資源の重要な産出国である中東諸国と周辺国の利害関係が民族・宗教問題と複雑に絡み、世界貿易の重要拠点であるホルムズ海峡を挟んだ攻撃と報復の繰り返しで、互いに疲弊し消耗戦を繰り広げている。
当初はイランの核兵器開発阻止が最大の目的とされたが、別の目的はベネズエラと同じく石油資源の優先的な確保にあるようだ。世界最古の永い悠久の歴史と文化を誇るチグリス・ユーフラテス文明を背景にイランをはじめとする中東の国々は、自国民族の歴史に培われた誇りと尊厳を大事にし、長年の経済制裁に耐え抜き、簡単には引き下がることはないだろう。
石油エネルギー資源貿易と軍備装備品貿易で中国とロシアは接近し、中国はAI開発,半導体製造、自動車輸出、インフラ輸出等を増大させておいる。中国からヨーロッパに及ぶユーラシア大陸を結ぶコンテナ鉄道網はスペインにまで及び、BYDは南米や欧州に自動車輸出を急速に伸ばしている。周辺の国々はその価格面の安さ中国製品の浸透を防ぐことは難しい。まさに一帯一路政策の実現とも言えるような状況であるが、しかし国内事情は巨大不動産バブルの崩壊の後遺症で、国内需要は低迷し、少子化高齢化・出生数の減少により4年連続で人口は減少し、人口減少による個人消費は縮小を余儀なくされ、経済成長率は低下傾向にある。
世界的なインフレ
各種資源・物資・食料の流通量は不安定化し、その供給制約は輸入インフレを引き起こし、世界規模で広がり、例外なく米国にも日本にも深くインフレの波を及ぼしている。
一般庶民の生活を脅かすガソリン・ガス料金の高騰のみに留まらず、あらゆる化学製品の高騰を引き起こし世界経済のインフレ傾向を助長する引き金となり、経済のインフレ化は金融に及び金利上昇の引き金となり、資金は金や株式に向かい、世界的な株高傾向をもたらし、急激な資金の流動化は安定的な世界の経済成長を損ない、長期の見通しが立たない。短期投資による投資先の過度の流動的な選好は経済発展の阻害要因となるだろう。世界的な規模で、AI、半導体、データセンター、原発・電源開発に対する投資は異常なまでの投資意欲の高まりをみせている一方で、そのAI開発・データセンターの巨額投資にまい進するハイパースケーラーとも呼ばれ、米国のマグニフィセント7や日本のソフトバンクグループなどは、将来の巨額収益機会を見込み、その投資にほとんどのキャッシュフローを注ぎ込み、社債を発行し、壮絶な巨大企業同士の投資競争を呼び起こしている。しかし、一方で冷静な外部観察者は用地取得、電源・送電網の確保、地元地域住民の反対運動も起こっており、かなりの部分が現実には実行不可能と予測している。既に過剰な成長期待神話に基づく株価値上がり期待は一部が剥がれつつあり、その先行きに対する期待と不安は世界の株式市場の乱高下を繰り返す最大の要因となっている。
日米の巨大な財政赤字と日本の米国投資と国内投資計画が意味するもの
2026年に米国の政府債務は40兆ドル(6400兆円)を超えると予想されており、巨額赤字を減らすべく、同盟国にも向けてもトランプ関税は発動され(その後、大統領権限を逸脱する大統領令としてその措置の大半は取り消されたが)日本は米国からの経済的恫喝に対し、対米80兆円の巨額投資を約束して、その矛先をかわそうとした。日本製鉄のUSスティールに対する巨額買収142億ドル(約2兆円)によって陳腐化した設備の廃棄、将来にわたる従業員の雇用の約束、最新の製鉄技術の導入した新設工場の立ち上げなどを内容とする救済合併と新規投資が、約束した投資第1弾となった。
翻って日本の国内向け投資は、「骨太の方針による、官民挙げての17分野に総額370兆円の投資計画決定」は安倍政権時代のアベノミクスをはるかに凌ぐ規模で実施されようとしている。
安倍政権時代はデフレマインドからの脱却がテーマであり、期待インフレ率の向上が政策課題であったが、その状況は一変し、急激な食品・ガソリン価格の上昇を体験した庶民生活感覚での来年のインフレ予想は5~10%というところではないだろうか。課題はインフレ抑制である。いくら政府が数字合わせを言っても、巨額の投資財源は赤字国債となるだろうというのが、庶民の大方の予想である。インフレによる経済圧迫か、成長による財政収支の均衡を図るのか、どちらが先に現実となってあらわれるのか、まさに370兆円の壮大な投資計画はオールインの大きな賭けと言わざるを得ないだろう。インフレは借金を持つ者に有利に働き、国の債務はインフレ分だけ自動的に目減りして、そのしわ寄せは低金利で預ける預金者に行くことは明白だ。
これらの政策に対し、世界の金融為替市場は金利上昇と円安で答えており、急激な歴史的円安を止めるために歴史的に稀な日米為替同時介入まで実施された(米国はユーロを売る手法をとった)。その原資は外為特会であり、無制限に使えるわけではなく、いずれ外貨持ち高も枯渇する恐れがある。日本の米国債保有残高は世界最大で、2026年5月時点で1兆1143億ドルとなっている。
米国は円安を阻止しようとする日本に肩入れするが、それは米国債の金利上昇を食い止めるためであり、米国の政府債務は2026年に40兆ドルに及び1.1兆ドルの利払いを必要とし、連邦政府歳入の22%を占めるとみられている。日本発の円安、長期金利の上昇により、アジア通貨安の引き金となることを恐れているのが実態だ。中国は米国債を継続的に売却し、金を買い、金本位制を目指すかのような動きを見せ、EUも米国と距離を置き、ユーロによる独自の経済圏シフトに動いている。
財政政策の困難さ
失われた30年を取り戻し、少子高齢化の進む、元気のない日本経済に、産業のAI導入とDXにより、飛躍的な生産性の向上をもたらし、若者が未来に希望を託せる希望のある社会に変革しようとする壮大な構想である。しかし、そこには避けて通れない大きなリスクが待ち構えている。大企業の2026年上半期の業績は7割以上が売上と利益を伸ばしており、法人税・消費税の伸びはそれぞれ21.4%、4.0%と過去最高を9年連続で更新している一方で、食品の消費税減税、軍事費・防衛関連予算の伸びも大きく、プライマリーバランスは数年単位で改善すればよいこととし、国債の絶対額でなく、GDPに対する国債残高の比率を下げていくというように方針転換した。財政赤字の拡大懸念による金利上昇と、その結果が漏らす国債の利払費の上昇は、更なる赤字拡大要因となる恐れが多分にある。
日本国債を国民に購入させるための準備も進められている。最近の長期金利の上昇を受けて、国債購入を検討する投資家も多いが、金利上昇の打ち止めとなる政策が実施できるかどうかに懸かっている。そのためにはこれ以上財政は悪化しないという安心感が必要だが、新ニーサに組み込む、相続税対象からの除外資産とする、日銀の国際残高減少を食い止め、さらに持ってもらう様々な案が検討されている。実現可能性は未定だ。
富の一極集中と国民中低所得層の窮乏化
一部の分野への集中的な資金・資源の投資は、実態経済全体にどれだけの相乗効果をもたらすのかより、逆に制約要因となるのではという疑念が現実のものとなりつつある。既にこの半年間で日経平均株価は1万4000円以上上昇し、土地価格の3年連続上昇、東京のマンション価格の極端な上昇は一部の起業家に更なる富の集中をもたらしているが、その集中化は速度を増し、歴史はその富は公平に分配されることは無く、持つ者と持たざる者の格差の固定化と拡大をもたらすことを警告している。
政治の目標は国民の実質可処分所得が増加させるというのが最大の目的である。進行するインフレは住宅関連費用支出を増加させ、子育て費用・教育費・食費を増加させ、一般大衆の生活を直撃し、給与所得増加を実感できないのが現実である。厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、生活が苦しいと思う世帯の比率は全体で55.4%に達し、母子世帯は82.1%、高齢者世帯で52.1%に及ぶ。相対的貧困率は15.0%となっており、OECD加盟国の中でも高い水準となっており、2025年のエンゲル係数は28.6%と44年振りの高水準となっている。
世界経済を動かす金利
金利は何を物語るのか?
金利は経済の体温と言われるが、その体温をみて世界の金融マネーが動き、株価は乱高下し、世界の投資家集団・ファンドが動き、企業投資が動く。その動きは投資ファンドのみならず、企業の投資計画、国家の財政政策、個人消費性向、住宅取得、人生設計にまであらゆる分野に影響を及ぼす。
言ってみれば、人間の様々に揺れ動く思惑と無秩序な行動、培った知性と突き動かされる感情との葛藤、個人と家族、社会、国家の利害得失を調和させようとする社会的な動きとその根拠となる立法秩序との狭間で、経済変動を呼び起こす最大の変動要因となっている金利・金利水準は、社会の現在の実相を表す指数でもあるとともに、年金資産の運用の巧拙が個人の社会生活に大きな影響を与えるように、企業活動の行動を促し、時には縛り、国家の経済財政運営を判断する上での大きな制約要因となっている。金融の世界で金利の発明が一方で世界を豊かにしたが、それによって今度は社会生活を営む人間が踊らされ、縛られるようになった。しっぽが犬を振り回すともいえるような状況だ。
米国金利と日本の金利差によるキャリートレードは特に有名である。日本円で調達したお金で米国債を購入すると金利差分だけ利ザヤが稼げる。そこにレバレッジ効果で何倍にもする手法だ。そこに為替レートが介在し、為替変動はもうけを大きく左右する。時には元本も毀損する。一国の金利政策は企業活動の今後の動向に大きく作用する。特に投資判断の基準に大きく影響を与える。
このような困難で厳しい経済状況の中で、一個人としてどう考え、どのような金銭哲学と生活信条を持ち、実生活に対処すればよいのだろうか。
毎日のように報道される世界の政治経済ニュースから距離を置き、政治経済コメンテーターのもっともらしい判断に捕らわれることなく、雑多な経済金融情報から一定の距離を置く生活を送り、普段から物事の拙速な反応を避け、古典的名著と言われる書物から長い時間、振るいに掛けられ、生き残った、生活信条・哲学に基づく慎重な判断と行動を心掛ける。物事にいちいち過敏に反応し疲れるだけの拙速な判断を見送り、自分の生活のペースを守り、自分と家族を守り抜くための生命エネルギーを温存する。人類の歩んできた悠久の歴史から学び、そこから得られる教訓と自ら培った価値観と行動指針を拠り所にして、それを頑固に守り通すそんな生活が送れればと思うが、現実生活は、なかなかそうは行かない。日暮れ道遠しである。「凡眼には見えず。心眼を開け。好機は常に眼前に有り。」という言葉を信じたい。
できることならば、はるか昔の故人の努力から得られた英知に触れて、現在の自分の置かれた環境に、多くの先人の苦労と絶え間ない努力の結果に感謝し、幾ばくかの選択の自由があり、自分の努力と行動次第で、様々な可能性にもチャレンジできることを感謝しながら、時に遠くの青い山並みを見ながら、多くの星で満たされた星空を見上げながら、ゆっくりと歩いていきたいものだ。