閉じていく世界
ブロック化し、閉じていく世界
世界のグローバリズムの限界が叫ばれ、世界はブロック経済化の様相を強めている。各国、民族が辿った歴史、地政学的な要因、国民が選択した政治形態により、新たなブロック経済化が進んでいくことを、著名なエコノミストである水野和夫氏は2017年の著作「閉じていく帝国と逆説の21世紀経済」のなかで、多くの世界の経済変動の変遷史の例示を挙げて、グローバリズムの限界から世界は、「閉じた帝国へ」と変遷し、その道が生き残る道であると説く。旧来の帝国を意味するので無く、共通の理念を掲げる広範な地域ブロック経済、自由貿易協定もその範疇にあると考えられる。その形態と影響力の行使の仕方から、アメリカの金融資本に依拠した形態、EUの地域的な枠組みを前提とした取り組み等が挙げられているが、アジアではRCEPなどの自由貿易協定の広がりも、そこに含めてもいいのではないだろうか。経済規模の大きさ、人口カバー率から言っても、成長の可能性が大きく、広範なアジア地域での自立経済圏の形成が促進され、民族・文化的なシンパシー、歴史風土が培った国民性に対する相互理解に、経済的連携が進み、その距離をさらに縮め、結びついていく流れができつつあり、アジア地域もEUに劣らぬ、歴史的な巨大自由貿易圏の形成過程にあるといえるだろう。
分断と格差
世界中で、分断と格差の問題が取り上げられている。
その傾向が更に強まったせいなのか?
あるいは多くの人々において、その解決が急務との認識が共有されたせいなのか?
格差拡大の理由
社会問題の根本原因である経済格差解消問題にとり組む、著名な米国の学者であるJ.E.スティグリッツは、資本主義経済は放置すれば、所得格差を固定拡大する方向に働くことが、最近の様々な学術研究によって明らかにされているが、世界各国の事情は一様ではないことも明らかにしている。
世界で最も経済格差が深刻であるとされる米国を例にとり、その大きな要因は、富裕層が政治的影響力を得てその資金力によって、社会・経済の仕組みである選挙制度を含めた法律などのルールを自分たちに有利に取り決め、社会経済に組み込み、有利な政治経済状況が持続する状況を作り出している結果であるとする。(「仕組まれた経済」格差拡大の理由、J.E.スティグリッツ(コロンビア大学教授、2001年ノーベル経済学賞受賞)
老いる貨幣
1929年生まれ(1995年没)のドイツの児童文学作家、ミヒャエル・エンデが表した、『モモ』は子供が読んでも、大人が読んでも面白い。人の話をよく聞く不思議な才能を持つ女の子、モモの周りには、多くの子供と大人が集まり、どこにでもあるものから、新しい遊びの種を見つけ、毎日を楽しく遊んでいた。その平和な村に突如「時間泥棒(灰色の男)」がやってきて、人々から時間を奪っていく。子供も大人もいつしか去ってゆき、自分だけのゆったりとした時間の流れを失っていく。その、時間を巧みに奪っていく「灰色の男」と勇敢に戦い、彼らから時間を取り戻していく物語で、1973年に世に出された。この寓話の中で語られる社会は、まるで現代社会の、大人、子供の姿そのものである。時間の持つ意味と価値を寓話という手法を使いながら、人にとって最も貴重な多くの時間を奪われた現代社会の到来を予言している。現代に生きる大人ほど、切実にその意味を、実感をもって受け止め、語られる言葉の節々にはっとさせられるだろう。
そのエンデは、最後まで人々にに大きな問いを投げかけた。お金の問題である。現代社会は「お金」の病にかかっているという、「ファンタジーとは現実から逃避したり、おとぎの国で空想的な冒険をすることではありません。ファンタジーによって、私たちはまだ見えない、将来起こる物語を眼前に思い浮かべることができるのです。私たちは一種の予言的能力によってこれから起こることを予測しそこから新たな基準を得なければなりません。」とミヒャエル・エンデは言う。
加速する変化
1. 変化の速さに立ち止まる暇もない
アメリカの世界的なジャーナリストで、ピュリッツァー賞を3度受賞した、トーマス・フリードマンは、近年の著書「遅刻してくれてありがとう」で、私たちが歴史の根本的な転換点に立ち会っていることを気付かせてくれる。著者は今立ち止まって、もっと深く考える必要があると決意し、この著作を3年間かけて世に出した。3年ほど前に刊行されこの著作は、全米でベストセラーとなった。この途方もないスピードで変化する世界の現状を理解するうえで、多くの示唆に富んだ鋭い考察が詰まっている。
テクノロジー発展が驚異的なスピードで世界の人々に及ぼす影響、ムーアの法則に代表される、その変化のスピードと広範囲な影響を超新星爆発(スーパーノバ)に例え、AIが人類の知能を凌駕する特異点(シンギュラリティ)が来るとし、気候変動・地球温暖化の深刻な影響が、移民・難民問題を引き起こす遠因となっていることを歴史的に明らかにし、人口増加、食料不足、宗教・民族対立、脱炭素エネルギー問題が世界規模で広がり、格差の拡大と貧困の固定化、中東をはじめとする地政学的にも非常に困難な様相を呈する世界の政治経済社会の現状を、実際に現地のベイルート特派員として、ニューヨーク・タイムズのエルサレム支局長として、自ら体験して書き記した考察には、多くの人の心を動かす説得力がある。
科学技術の発展が及ぼす人々への変化を「スーパノバ」(超新星爆発)と形容し、そのスピードは世界の人々を巻き込んで益々加速しているが、ごく一部の人を除き、誰もついていけないというのが現状ではあるまいか。世界的な規模で企業活動を行うグローバル企業では、その企業集団と所属する個人に対し、その変化の流れに必死で追いつき、変化に対応することを求め続けるが、個人の生活者レベルでは非常に困難が伴う。企業で働く人々は立ち止まることも許されない。