郊外へ、地方へと向かう若者
東京都の転出超過が8月まで4か月連続で続いている。東京圏の過密度、集中度は一都三県で3600万人以上の人口を擁し、世界最大の集積・過密度である。今後、数十年の間に起こりうる自然災害のリスクを身近に感じ始めていることもあるだろうが、そこにテレワーク、リモートワークの定着もあり、地方に関心を持ち、就農を視野に地方移住を考えている若い世代が増えている。
東京一極集中から地方への分散
様々な要因、原因で人は移動、移住を決断する。身近なところでは、職を求め地方から都市への移住、転職に伴う引越しから、自身に迫る高齢化、老後の生活を考え、地方又は都市部へ移住を決断する夫婦、子供の教育のために引っ越す子育て世代、自然災害の脅威から逃れるための移住、歴史的にグローバルに見れば、戦後の生活苦から逃れるための海外移住、世界各地の紛争地域の影響から身を守るために止むを得ず避難する多くの難民まで、そこにとどまるべき要素が減少し、移動・移住の制約が少なくなり、人は様々な地政学的要素と様々な経済的な要因、個人的なライフスタイルの選択により移動・移住する。しかし、何といっても最大の要因は、家族が生活するのに必要な収入を得られる職が探せるかどうかである。その移動・移住は頻度を増し、人口の流動性は今後も高まっていくだろう。
地方都市の誘致合戦
少子高齢化に直面する地方都市では、若い世代に対する移住誘致政策に本腰を入れている。いかに選ばれるかの総力戦である。
一般的な人気の高い、住みやすいとされる町の基準は、ある程度の公共インフラも必要であり、町の生活の便利さをカバーする最低限の商業施設も必要である。そう考えると、人口も5万から10万人程度の規模が必要である。それも地方の中核都市の近隣で、都心に30分から1時間までで行ける距離が望まれる。選ぶポイントは、自治体の子育て優遇制度、市県民税、病院、公園、図書館などの公共施設の充実度、教育環境、治安の良さなどがあげられるが、やはりポイントは働く場所、現在の職場への通勤は可能か、自分に合った新しい職がそこで見つかるかかどうかに懸かっている。
2ヶ所居住、又は郊外に移り住むという選択肢
近年、マンションの平均販売価格は高止まりしており、比較的裕福な高齢者層が、都心の便利なマンション住まいを選択する傾向が窺える一方で、総じて若者が生活費の余りかからない地方への移住を検討し、移り住む傾向が表れている。比較的広い居住スペースが確保できる郊外の一戸建てが売れている。旅行にも行けず、居酒屋にも行けず、カラオケにもいけず、家で過ごす生活時間が圧倒的に増加しているなかで、巣ごもり需要、マイホームの設備の充実、リフォームに関心が集まっているが、若い夫婦が購入できる、手ごろな地方の戸建て分譲住宅、リフォーム済みの中古住宅などの売れ行きが好調である。また、一定期間、季節ごとに、住まいを変える二ヵ所居住も選択する人が増えている。遊牧民のようなノマドワーカーという生活スタイルもあるが、様々な働き方にテレワーク、リモートワークが一役買っている。
ワークスタイルの変化は徐々に広がりを見せ、場所を選ばない働き方が可能となってきた。地方では、居住費、交通費、生活費がかなり抑えられるので低い収入でもやっていける。農業、林業、漁業などに関心を持つ若者が増加してきている。東京一極集中の過密環境の中で、新型コロナによる社会的な様々な規制により、人と人の距離が益々疎遠になり、疎外感を感じる若者が増加した。地方自治体の積極的な若者の移住迎え入れ制度が充実し、様々な優遇制度、一時金の支給など、かなり思い切った魅力ある制度と生活支援の提案が増えている。働き場所さえ確保できれば、様々な地縁、人縁のしがらみが比較的少ない、若い世代ほど移住の決断・実行が容易だろう。
地方移住と農業の見直し
若者の間で地方の農業に関心を持つ人が増えている。近年、農業就業人口は大きく減少し、高齢化が進んでいるが、近年は就農をサポートしてくれる国の施策が多数あり、若者の就農者数の増加につながっている。2014年以降、49歳以下の新規就農者数は毎年2万人を超え、令和元年まで、ほぼ2万人近くが、自営・雇用・新規参入するかたちで就農している。その内新規の雇用就農者は1万人前後となっている。従来の既存の農業従事生活を若者の新たな視点で捉えなおし、農業従事生活を選択する多くの若者は、自分の生活と価値観・ライフスタイルとを両立させる手段として地方への就農希望者が増えているのではないだろうか。しかし、現実は厳しい。問題は住まいと、子育てしながら生活を支えるに足る収入が得られるかどうかに懸かっている。様々な市町村の就農支援・育成制度が準備されているが、就農自営スタイルでの新規参入にはかなりの初期投資と数年間の農業技術の習得期間が必要だ。近隣の市場にあった農作物の選択、天候に左右される野菜栽培、独自販売ルートの開拓など、課題は山積だ。市町村では空き家バンクで住まいを紹介し、仕事も斡旋する取り組みもあるが、総じて低収入となる就農生活で、いかにしてその収入不足を他の副業で補えるかが切実な問題となる。
若者の平均的な可処分所得の増加ペースはここ数年低迷しており、コロナ禍の休業、時短の影響を受け、一部では逆に低下傾向にあり、短期間で転職をくり返したり、非正規労働者となれば尚更、生活に余裕はなく、経済的な理由により結婚を諦める若者も増加している。どうしても当面の生活優先の短期的な対応になりがちで、長期的な計画を持ち、企業が必要とするスキルアップに備えることができなくなる。例え、首尾よく大企業に就職できたとしても、現下のコロナ禍の状況で、仕事も社会生活も人と人の交流は希薄となり、多くの職場で、リモートワークの働き方を一定部分組み込まざるを得ず、人と人の繋がりが感じられない働き方で、仕事のもう一つの重要な要素であるやりがい、承認欲求、評価による満足感、チームの一員としての連帯感は得られない。すべてインターネット上のデジタルの世界で処理され、仕事と生活実感はかけ離れていく。
様々な選択肢がある。今まで経験したことのない苦労は多く、多くのモノに囲まれ、利便性の高い生活から離れ、地方の農業従事生活の中で本来の自分を取り戻し、季節と自然とともに生きる生活を選択し、限られた収入の中で自分のやりたいこと、自分らしいライフスタイル、ワークスタイルを確立するため、得意なITリテラシーもフルに活用し、若い世代がこれからの新しい時代の流れを先取りしていくのだろう。