ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)は普及するか
多くの人が家に求める重要な要素は、「家族を守り、安心して住める家」に尽きると思うが、このコロナ禍でテレワークの普及が進み在宅時間が増え、食料品をはじめとする前例のない物価上昇、特にエネルギー資源の高騰が企業収益と個人の生活費を直撃する時代となり、高断熱住宅による水光熱費の削減と太陽光パネル設置と売電・蓄電設備等を組み合わせた「ZEH ゼロ・エネルギー・ハウス」がにわかに注目されている。
健康で長生き生活に欠かせない高断熱住宅
家で過ごす時間が長くなると健康への影響も見過ごせない。高断熱の家は高齢者の直面する健康課題を改善し、<血圧が下がる、血中脂質が低下する、夜間頻尿が軽減される、入浴事故なども改善する>といわれている。
年間エネルギー消費ゼロを目指すZEH
高断熱の住まいと高効率の省エネ設備、太陽光発電により、エネルギー収支ゼロを目指すZEHであるが、新築住宅の初期投資の増加を賄うには、フラット35による金利引き下げ措置があり、10年強でそのコストを回収できるとする試算がある。具体的には、基準を満たした住まいはフラット35の借り入れコストが、最初の5年間はマイナス0.5%、6-10年間はマイナス0.25%と引き下げられる。2025年には省エネ基準の義務化、さらに30年にはZEH水準までが義務化され引き上げられる予定だ。
自治体独自の奨励策の取り組み
東京都は条例で新築住宅の太陽光パネルの設置を2025年4月から義務化する。義務化されるのは住宅を購入する消費者でなく、都内で供給する住宅の延べ床面積が年間2万平方メートル以上の大手住宅メーカーである。
名古屋市は省エネ住宅の改修補助を決めた。その内容は住宅金融支援機構が22年10月に始めた「グリーンリフォームローンS」を利用した壁、床、窓の断熱対策が対象で、回収後にエネルギー消費をゼロにするZEHの水準を満たしている場合に利用できる。最長で10年間、名古屋市が1.5%を上限に金利を全額負担する。民間機関が発行するZEHの証明書(約15万円)発行手数料も肩代わりする。名古屋市内の47万9千戸の住宅のうちZEH水準に対応するのは現時点で、数パーセントにとどまるという。
省エネ性能で住宅の価値評価が決まる時代
新築30坪で300万程度のコスト増加と言われるZEH化するための負担増は、やがて家具の購入、電気製品の一括購入とともに住宅購入予算に組み込まれていくことになるだろうが、イニシャルコストと生涯コストをどう捉えるかである。そのなかでも最大のインセンティブは何といっても、住宅資産の価値の維持であろう。中古住宅市場でも価値が比較的下がらないZEHは、選ばれる住宅の一つの有力な候補となることだろう。
多くの世帯が求める省エネ住宅であるが、高嶺の花
急速に進む高齢化社会、出生数の減少、若者達の将来設計に対する経済的な不安感、一人世帯の増加、地方の過疎化と空き家問題など、住宅を取り巻く環境は大きく変化する中で、ZEHの建築坪単価は優に100万円を超える比較的高額な注文住宅や大手ハウスメーカー製が主流となり、需要は一部の富裕層に限定されるのだろう。
今後一般的に住宅に求められる条件は、防犯設備も備えた、一定の耐震性能、手が届く価格に組み込まれた高断熱仕様の住宅設備、自然災害時に救助の手が差し伸べられるまでの3,4日間は電気を含め、エネルギーの自給自足を可能とする設備、食料備蓄庫などであるが、住宅に対する要求水準はさらに高まり、建築費の高騰も相まって住宅価格は高額化の一途をたどっている。長期にわたるストックとしての住宅資産の側面が強まるであろうが、インフレにより実質賃金が目減りするなかで、一般庶民には手の届かない高嶺の花である。初期投資は何年住めば回収可能なのか、10年、20年、30年にわたるシミュレーションが必要だ。このZEHの家の建築に投入されるトータルの資源とエネルギーは省エネ効果と見合うのか、太陽光パネル等の設備の耐用年数と使用後の廃棄コストなどは計算に含まれているかなど、トータルで地球温暖化ガスの削減に良い影響を与えるのかどうか。
多様なニーズを満たす様々な住まいの選択肢
それぞれの地域特性に適合した自然とエネルギーの活用策は古来より様々な知恵と蓄積がある。既存中古住宅の再活用のための投資も重要だ。資源・エネルギーを際限なく使用する生活の見直し・スリム化も必要だ。多くの人に手が届く価格で、必要な住宅機能を兼ね備えた住まいを実現するためにも、すべての設備を兼ね備えた戸建て住宅だけでなく、様々な複数世帯が共同で効率よく利用し、老若男女が同居し、子育ても見守りも分担することで若者の出産・育児への負担感と不安を軽減し、少子化の歯止めもある程度期待できるのではないだろうか。また、高齢者向け施設と幼稚園・保育園との組み合わせ、高齢者と若者の共生で、高齢者の住宅費の負担減と経済的に困難な若者・子育て世帯の経済的メリットを引き出せる、そんな付加価値や魅力に溢れた共生する集合住宅も必要だろう。社会が求める環境住宅政策と調和し、同時に多くの人の現実的な眼の前の困難を解決する住まいが求められている。