ステイ・スモール
小さな会社で起業するだけでなく、小さな会社であり続けることが、あなたにとって最善である理由を「STAY SMALL」の著者ポール・ジャルビス氏は十分に語り尽くしている。
副題は「会社は小さいほどうまくいく」である。
起業調査機関、英GEMの最新データでも「新規事業の成功可能性が高い」と考える成人の比率は日本で10%にとどまる。調査した50ヵ国で最下位である。米国は60%、中国は70%を超える。大企業に就職したいと考える大学生の比率は20年3月で52.7%、一方で起業したい学生は0.5%しかいない。(大阪大学大学院、延岡健太郎教授、週間東洋経済2021.1.2)
一般的に、起業の成功物語には、自ら少額の資本を準備しスタートする中で、投資家の興味を引くサービス・製品に対する賛同を得て、投資を募り、更なる大きな資本・ヒト・モノ・カネを準備・手配し、十分な成長と利益を確保する為に、がむしゃらにサービス・技術開発・製品開発を進め、昼夜を分かたず寝る間も惜しんで猛烈に働く。売上拡大・組織の拡大に突き進んでゆき、当面の最後のゴールは店頭公開企業となり、創業者利益を手にし、早期リタイアを実現するというシナリオだ。しかし、そのようなコースを辿るのは本当に稀なケースであり、多くの人々は非現実的な夢物語に過ぎないと考えている。
自分の得意とする分野で小さな会社を興すことはできるが、少人数、又はひとりで出来るような会社には様々な制約がある。起業したほとんどの会社は小企業・零細企業の範疇に留まる。3年、5年と継続して企業が存続する可能性もかなり低い。なぜか、出発が間違っていたのである。考え方が間違っていたのである。自分の望む暮らしを中心に据え、会社そのものを自分の働き方・ライフスタイルに合わせて設計する。生活に必要な収入と自己実現するための手段として、会社を位置づける。そのような自分の人生設計、ライフスタイルに合わせた、オーダーメイドの小さな会社を作るには、必要な要素がいくつか有る。
- 自分の核にある一連のスキル・能力を中心に、他人資本を投資すること無く、コストを掛けずに利益に結びつく小さな一つの仕事に集中し事業を始める。目的に合った自分のペースでの仕事の時間割を作る。むやみに規模を拡大しない。多忙と煩雑さからは、望む生活スタイルは実現できない。小さい会社のままでいることが、最終目標だ。
- 小さなアイデアから始め、すぐに実現できる方法を見つける。効率的な新しい方法を使って、最もうまく仕事をやり遂げることで、顧客に満足してもらう。自分にお金を払ってくれている顧客に、自分の時間とエネルギーを最大限集中する。小さな顧客を大事にする。大事にされた人がほかの人にも、あなたのことを話す。顧客の口コミが最大の広告宣伝となる。ニッチな強みに集中し、顧客との長期的な関係を築く。
- 製品やサービスをシンプルにとどめ、仕事のルール・プロセスを単純にし、管理業務を複雑にしない。人を雇うときは、絶対に必要なときだけにする。
- WEBサイト・インターネットテクノロジーを最大限活用し、少人数で多くの顧客に一対一で役に立つ、満足のいくサービスを提供する(ここが肝心だ)。
- 少人数ならば、アイデアを思いついたらすぐに実行できるし、市場でテストし、更に修正を加えやり直す。軌道修正を速やかに行い、よりよいサービスを提供していく。
- 売上目標に上限を設ける。自らが制御可能で、持続可能なゾーンに留まる。
- 思慮深く行動し、仕事の仕組み全般を知るゼネラリストになる必要がある。
- 成功も失敗も隠さない。個性をそのまま維持し、あるがままの自分の個性で顧客と結びつく。
- 顧客は完璧を求めていない。失敗すれば素直に誤りを認め、サービス・製品の改善の意欲を示す。
- 小さいままで多くの人に届ける仕組みを作る。入り口を自動化し、自動送信のメーリングリストなどを活用し、個々に対応する。オンラインとオフラインをうまく使い分ける。
- アイデアは顧客と共有して実現する。自分の知っていることは惜しみなく教える。顧客教育すなわち顧客に知識、スキル、能力を提供し、逆に顧客が信頼して情報を提供してくれ、サービス・製品の改善提案を直ちに反映する。売りつけるのでなく、顧客の役に立つことを教えるという考え方、発想の転換。
- 小さく始めて繰り返す、継続する。見込みで無く実際の利益で動く。
- 社会的なネットワークを築く努力、相互関係性を大事にし、顧客を手助けをするギブアンドテイクの実践。
以上のような注意事項を守り、会社を一定規模にとどめ、大きくしない。自らのライフスタイルの実現が最大の目的なのである。多くの売上・収入を得るためだけに時間を費やし、人生を棒に振らない。自己実現の為の手段である会社が、個人の生活、ライフスタイルを振り回すことの無いように、小さな会社のままでとどまり、自分のしたいこと、実現したいことをメインに会社設計をする。小さい会社のままでとどまりながらも、社会資本ともいうべき社会的な繋がり・ネットワークを大事にし、必要とされる、信頼されるサービス・製品を通じて、人の役に立つことが自らの喜びとなり、やり甲斐となる。
しかし、此処に至る道は平坦ではないだろう。かなりのエネルギーを傾ける必要がある。何よりも必要とされるのは、個性であり、独自性であり、先見性であり、こだわりであり、自分自身への信頼と不屈のチャレンジ精神であろう。それによって得るものは、事業と自分のライフスタイルが、程よく混ざり合った、納得できる、充実感のある人生である。