日本列島の豊かな自然と食文化
現在の豊かで変化に富み、自然に溢れた日本列島が形成されたのは、約2500万年前から始まる大陸移動のプレートテクトニクスに基づく地殻変動によるものであり、アジア大陸から分離・移動し、日本海を形成し、瀬戸内海を生み出した。日本は世界の活火山の7%に当たる、111の活火山を擁する、世界一の火山大国でもあり、活発な地殻変動は今も続いており、マグマによる活発な火山活動とともに、日本列島は世界一の変動帯の上に存在しているという。その日本固有の変化に富んだ豊かな自然が各地に多くの美食を生み出している。(マグマ学者、巽好幸著「美食地質学入門」光文社新書)
その豊かで変化に富んだ海と山と川は、四季折々の気候風土と各地のおいしい魚と農産品・名産品を生み出し、同時に悠久の歴史に培われた日本固有の文化・芸術・伝統芸能と歴史的な文化遺産は、日本をして世界中から行ってみたい国の上位ランキングに押し上げ、海外からのインバウンド旅行客の日本訪問は、ここ最近のコロナ禍からの離脱もあり、大変な活況を見せている。
元々大陸と繋がっていた日本の地形が分離し日本海を形成し、四つのプレートの複雑な活動により、日本列島の中央部が沈み込み、折れ曲がり、伊勢湾、琵琶湖、関ヶ原、若狭湾、敦賀湾に至るまで日本の最も狭い幅の地形を生み出した一帯は、今なお沈下し続けている。
太平洋プレートは日本海溝とともに西に移動し、地中深くにおいてフィリピンプレートと衝突し、フィリピンプレートは西に方向転換し、陸域には逆断層の圧縮力で山地が東日本に形成されたという。言ってみれば伊豆半島が関東平野のある北米プレートに衝突し、東日本は今も隆起を続けているという。
プレートテクトニクスによる地殻変動とその結果であるマグマによる火山活動は、富士山を始め、日本各地に高山・山脈を形成し、多くの河川を成し、森林地帯をもたらし、列島周囲四方を海に囲まれ、豊な寒暖流の流れは、日本列島を回遊する豊富な漁業資源をもたらしている。日本の領海、排他的経済水域、延長大陸棚を含む面積は465万平方キロメートルあり、世界第6位。海洋資源の豊富さは言うまでもない。
また、その魅力を十分に堪能させてくれるホテル・旅館施設・保養リゾートは全国に数多くあり、各地に残る様々な歴史と風土・伝統芸能・祭り文化と共に、一層の魅力を加えているのが、個性豊かな郷土料理と自然によって育まれた食の多彩さと豊かさである。このような自然景観・観光施設・温泉施設と歴史的に育んできた伝統文化・食文化は、今世界的な再評価を受けている。
ドナルド・キーン氏は東北大震災の年2011年に日本に帰化した、世界的な日本文学の研究者で、世界に日本文学を広く紹介した功績で夙に有名であるが、2019年に96才で亡くなられた。キーン先生は日本と日本人をこよなく愛し、その日本人の持つ国民性・精神性について次のように言及している。その国民性を特徴づけるものとして、清潔さ、礼儀正しさ、進取の精神と、明治維新・戦後復興・高度経済成長を成し遂げ、東北大震災からの復興からも見られるように、いざという時に発揮される潜在的な団結力と底力がある、という趣旨の言葉を残している。
地質学・マグマ学の国際的な権威である巽氏は、この日本列島誕生の経緯と共にその各地の美食・名産品の誕生の仕組みとその成り立ちの謎を見事に解き明かしてくれる。日本は、世界有数の経済力を持ち、整備された高速道路網と新幹線の交通インフラを張り巡らし、世界でも稀な自然の多様性を誇り、豊富な天然資源、食文化の宝庫であり、歴史・伝統・文化的にも発展し、魅力に溢れる国であることを世界は再発見している。マグマ学の権威の手により、その長年の研究成果の上に上梓された本書は、日本列島形成の驚くべき成り立ちの謎と各地の美食の源とを解き明かしてくれる。そこに育まれた調和のとれた日本の総合的な文化的な魅力の前奏曲となり、日本に対する理解を一層深めてくれる興味の尽きない一冊である。