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老いる貨幣

更新日:2021年10月30日

1929年生まれ(1995年没)のドイツの児童文学作家、ミヒャエル・エンデが表した、『モモ』は子供が読んでも、大人が読んでも面白い。人の話をよく聞く不思議な才能を持つ女の子、モモの周りには、多くの子供と大人が集まり、どこにでもあるものから、新しい遊びの種を見つけ、毎日を楽しく遊んでいた。その平和な村に突如「時間泥棒(灰色の男)」がやってきて、人々から時間を奪っていく。子供も大人もいつしか去ってゆき、自分だけのゆったりとした時間の流れを失っていく。その、時間を巧みに奪っていく「灰色の男」と勇敢に戦い、彼らから時間を取り戻していく物語で、1973年に世に出された。この寓話の中で語られる社会は、まるで現代社会の、大人、子供の姿そのものである。時間の持つ意味と価値を寓話という手法を使いながら、人にとって最も貴重な多くの時間を奪われた現代社会の到来を予言している。現代に生きる大人ほど、切実にその意味を、実感をもって受け止め、語られる言葉の節々にはっとさせられるだろう。

そのエンデは、最後まで人々にに大きな問いを投げかけた。お金の問題である。現代社会は「お金」の病にかかっているという、「ファンタジーとは現実から逃避したり、おとぎの国で空想的な冒険をすることではありません。ファンタジーによって、私たちはまだ見えない、将来起こる物語を眼前に思い浮かべることができるのです。私たちは一種の予言的能力によってこれから起こることを予測しそこから新たな基準を得なければなりません。」とミヒャエル・エンデは言う。

貨幣の効用と弊害

貨幣は人類が編み出したもののなかでも、特別な地位を占めている。貨幣には、交換手段・価値の測定・維持貯蓄という3つの働きがあるが、すべての自然界にあるものがその使命を終えて、老化し消滅していくという自然の摂理に逆らい、それは老いることがなく、時間とともに利子を生む。いつの間にか、人生の目的の達成手段であった貨幣の獲得が、今や人生の目的と化してしまった感がある。貨幣さえ手に入れれば自分の多くの望みが叶い、誰もが幸せになれると勘違いしだした。貨幣は、世界の人々を経済的に強力に結びつける役割を果たしているが、ミヒャエル・エンデが投げかけた問いは、「貨幣も老いる必要がある、人々が永遠に老いない貨幣を追い求め、大切な時間を失う現代社会の姿を深刻に受け止めて、今一度考える必要がある」という問いである。

インフレとデフレ

デフレも困るが、インフレも困る、というのが生活者の実感である。日銀は長年、経済成長を促すため、消費を呼び起こすインフレターゲットを2%とし、大胆な金融財政政策を推し進めてきたが、デフレ脱却は非常に困難な戦いであった。しかし、ここに来て、様相が変わってきた。新型コロナウィルスによるパンデミックから、世界は徐々に抜け出しつつあり、景気は回復傾向にあるが、経済活動を一斉に再開したことに起因した、半導体をはじめとする自動車・電子機器製品の重要部品のサプライチェーンは供給を停止し、世界物流の停滞と資源の供給制約も重なり、企業の原材料仕入価格は高騰し、冬場に向けて原油・天然ガスの一時的過剰需要は価格急騰を呼び起こし、世界経済をインフレによる金利上昇局面に導いている。ここに来て、アメリカのインフレ率は予想以上に高く、日米の実質金利差はドル高円安を生み、株価は様々な要因で乱高下を繰り返す、落ち着きのない動きを見せている。その波動の影響は、私たちの日々の暮らしにも広く影響を及ぼしている。

地域貨幣

「老いる貨幣」が必要だとエンデは言う。使用期限があり、貯蔵すると次第に価値が逓減する通貨の試みは、今までも世界各地で様々なところで実験・実践されてきている。身近なところでは、若干、地域通貨とは異なるものの、利用範囲が限定された、市町村の発行するプレミアム付き食事券、生活地域に密着した経済圏の活性化を狙った地域商品券、ふるさと納税、地域クーポン券・ポイント制度など、様々な試みがなされている。

その地域のみで流通する独自の交換手段(たいていは小規模)である地域通貨は、世界各地で独創的な発想で実施されており、地域にお金がとどまり、消費を促すための通貨として人々を結びつけ、個人と小規模事業主の相互の連携を深め、地域のコミュニティーを力強く形成するのに役立っているという。

「老いる貨幣」の導入を実際に考えるとき、恒常的な経済的・財政的な取り組みとするには、法律の壁をはじめとする、様々な困難な課題があるだろうが、税収などの財政的な裏付けがあり、社会的弱者救済、実需喚起と地域活性化に結び付く、「消費期限付地域貨幣」、言ってみれば「老いる貨幣」のアイデアは、多くの可能性を秘め、世界各地でその地域の実情に合わせ、様々な試みががなされており、その有効性を評価する声が多い。少子高齢化、人口減少が避けることができない日本の社会において、貨幣が持つ人を結びつける本来の役割を再発見し、地域の活性化に繋げる、地域独自の「老いる貨幣」への試みは、非常に興味深く、試す価値があるだろう。

代表紹介

大村秋男
静岡大学卒。地域金融機関で長年営業畑、本部業務等を経験し、RCCにて債権管理回収・事業再生業務、不動産会社にて不動産業務全般を経験。
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、公認 不動産コンサルティングマスター
今まで様々な不動産及び経営相談業務等に携わり、その経験を生かし不動産コンサルタントとして独立
2018年9月会社設立、代表に就任し現在に至る

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