時代の変化で人生も変化
ダライラマの言葉
「LIFE SHIFT2」(アンドリュー・スコット、リンダ・グラットン著)においてチベット仏教の最高指導者ダライラマ14世の言葉が引用されている。
「・・・人は金を稼ぐために健康を犠牲にし、健康を取り戻すために金を犠牲にする。未来を心配しすぎるあまり、現在を楽しめない。その結果、現在を生きることも、未来を生きることもできなくなっている。そして、自分の命が永遠に続くかのように日々を漫然と生き、真の意味で生きることがないまま死んでいく」
高齢化社会の恩恵と理想
高齢化社会は悪いことばかりではない。社会で長く働き続ける人が増加している。働くことが健康長寿に最大の貢献をする。65歳以上は一律高齢者という括りで片付けるには、そのボリュームと占める割合は3640万人で、総人口に占める割合29.1%(2021年9月15日現在の推計)となっており、今後さらに健康な老年層が増加していくが、余生・老後と捉えるには本人にとっても、社会にとっても、あまりにも大きな損失である。70歳を超えても働きたいと願う人が一層増えている。老後資金の不安など、それぞれ様々な理由があるだろうが、暦年齢で無く、個別の一人ひとりが自分に合った知識、技術、スキルの再学習を通して再度社会参加し、働くしくみが必要だ。
手軽に実践できるオンライン学習、資格取得、技術習得、社会貢献活動参加など、現在の生活を基本的に維持しながら、地域コミュニティの活性化に参加し、程よく働く生きがいを見つけられるような、個人にマッチした学習・実践プログラムをAIで開発できないだろうか。本人の経歴と希望に沿った職場・職業、社会参加のプログラムをAIが診断・提案し、実践できる場を社会制度的に準備する。多くの人は健康な間は、できるだけ長く働くことを希望している。家に一人閉じこもることなく、一定の役割を果たし働き、収入を得て、さらに社会の一員として共同参加できる場を見出し、生きがいを持って前向きに人生を歩むことになるだろう。
しかし、そこに至るには乗り越えるべきハードルがいくつかある。
社会制度の課題
どうすれば、長く健康であり続けられるか・・・教育・訓練を受け、新しいスキルを身に着け、できるだけ長く働くことは、健康を維持増進するうえで最大の効果を上げる。年金以外の一定収入を得れば、消費生活に参加でき、老後資金の不安もある程度解消するだろう。具体的には、高齢者医療は予防に重点を移行し、本人が希望すれば、学び直しのプログラムを十分に準備し、有用なスキルを身につけ、いつまでも働く機会を多く提供する社会制度的仕組みの構築が必要だ。週三日から四日、土日中心、午前中のみ、早朝の早い時間など、高齢者の特性に合った働き方を工夫・考慮し、一定の収入が得られれば、社会全体に占めるシニア経済も活性化し、個人生活も活性化するだろう。
個人の努力
過去の選択肢を捨て、年齢に対する考え方を変える、現在だけでなく今後も長く続く人生をいかに再構成し、組み立てるか、マルチステージの人生、長期化する職業人生、社会が必要とする仕事の変化を認識し、仕事に対する考え方を自ら変える必要がある。
学習と新しいライフステージへの移行を経験・実践すると(自分から見た、人から見た)アイデンティティも変わる。自力で新しい未来を切り開くために、一歩踏み出す好奇心と勇気が必要となる。
世代間の共感と共存をはぐくむ
世代対立の壁を乗り越え、世代間の共感と深い絆をはぐくむ必要がある。老齢従属人口指数(現役世代一人で年金受給者を何人支えているか)などを用いて、むしろ世代間の不公平感と対立を際立たせるような分析が多くなされるが、誤解・弊害が多い。そこに示される特定のネーミングをした世代区分(ミレニアル世代、Z世代など)分析は、若者と高齢者を分断し切り分けるだけである。社会は重層的で複合的であり、老若男女、老壮青が混在し、共生・共存する実際の社会全体の姿とは異なる。世代間の協力と融和を促進する努力が必要である。
新しい変化を迎える準備・実践期間
日本経済は20年以上に及ぶ長期の低成長から抜け出せず、デフレ基調にあり、世界の先進資本主義国、アジア地域の経済的に躍進する地域との比較において、生産性、成長率、一人当たりGDP、平均賃金などをもって遅れを取っているとの報道が近年多くなされているが、生産性、GDP、平均賃金などの比較よりも、高齢化社会においては、もっと大切な価値観と幸福の尺度が求められている。
急速に進む高齢化社会、晩婚化、出生数の減少、核家族化、一人世帯の増加、地方の過疎化など、高齢者問題で世界の最先端を行く日本は、未来を担う若者達の将来設計に対する不透明感・不安感を払拭する人生戦略こそが必要で、今後の少子化問題を解く鍵となるだろう。
「LIFE SHIFT2」の分析・考察・提案は人々の健康・労働に対する考え方の変化と実践、それをサポートする社会的発明により解決可能であることを示しており、長寿高齢化社会を生きる、すべての人に大いに役立つだろう。