投資の三分法、人生の四分法
人間は弱さと同時に、叡知を合わせ持った力強い存在
宇宙の138億年の悠久の歴史を考えれば、人の一生は一瞬の瞬きに例えられるかもしれない。しかし、人が一生に何度も後悔するには十分過ぎる程の時間が与えられている。出来ることならば、「チャレンジしなかった」という人生の後悔をいかに少なくすることができるかである。人生の幸福感を支える基本的な構成要素の一つである、一定の資産・財産を形成すれば、その資産・財産を背景に経済的制約から解放され、様々な場所で、様々な分野で、新たな活動にチャレンジすることができる。起業・投資を通じて築き上げたプラットフォームを次世代にバトンタッチして、次世代にもっと広い活躍の場を提供していくことも可能となるであろう。
戦う前に負けるか(或いは諦めるか)、戦って負けるか(或いは勝つか)
投資の三分法を実践する前に、投資資金を先ず蓄える必要がある。投資資金を如何に蓄えるかは、獲得目標、手段、目的に対する取り組み熱意、年齢も関係してくる。若者には長期投資に見合うだけの時間があるが、投資資金が無い。逆に、高齢者には資金はあるが時間が無い(一般論)。となると若者は長期投資(リスクを十分にとれる)、高齢者は短期投資(リスクがとれないので)ということになるが、果たしてそうだろうか。一定の年代層が全体として今後何年生きるかは生命保険会社がよく知っている。しかし個々に置かれた事情は様々に異なり、自分の余命は誰にも分からない。予定調和とも言える人生を送れる人は、1割にも満たないのでは無いか。人生は想定外の連続で在り、予期せぬ出来事が毎年起きる。百年に一度の自然災害が毎年起きる(?)。人生の第4コーナーに差し掛かり、今までの人生の旅程を振り返り、満足するのは、何回新しいステージに立ち、何回新しいことにチャレンジしたかであり、後悔を生むのは正に「何もチャレンジしなかったこと」である。
自分の周囲の人たちからの絶え間ない執拗な妨害工作は繰り返される。「起業・投資などという危険なことは避けて、大きな会社に入って、真面目にコツコツと働いて貯金し、安定した生活を送りなさい」という台詞が親世代の常識であった。これからの健康寿命の伸長・活動期間の長期化を考えると、いくつになっても再学習(リカレント教育)し、新たな分野に挑戦する時間はだれにも十分に残されている。一番取り返しのつかない後悔は「やっておけば良かった」であり、その相対的な後悔の重みは、長くなった人生の後半期に、さらにその重みを増すことは想像に難くないであろう。
起業・投資の一歩を踏み出す勇気
様々な逡巡を断ち切り、起業であれ投資であれ、自らの足で立つ独立の一歩を踏み出すには勇気が必要だ。思い立ったら吉日で、あれこれ思い悩むより、案ずるより産むが安しで、小さな一歩を実行に移すことが何よりも大切である。起業で直面する課題は次回以降に譲り、本稿では投資を開始する上でのいくつかの項目について述べたい。
計画的な貯蓄習慣とマイホーム投資
職場の給与の天引き制度、銀行預金口座からの自動積立、証券会社口座からのNISAへの積立投資など、消費する前に一定額を貯蓄・投資に回す自動振替サービスは様々なサービスがある。これは将来のマイホーム等のはっきりした投資目的を持った若い世代におすすめである。まだ子供が幼い子育て期に、5年ほど生活費を節約し、貯蓄に振り向け、所要の2割から3割の頭金を貯めることさえができれば、人生初めての大型不動産投資であるマイホーム投資は可能となる。
狭い意味での財産3分法
狭い意味では、現金(預金、債券)、不動産、株式(さらに金)などに財産を分けて運用することであるが、『一つの籠にすべての卵を入れるな』という古い西洋の諺にある通りである。マイホーム不動産投資の次のステージは、現在の金融市場の発展により、リスクを分散させ、過度に自分の慣れ親しんだ身近なものに引きつけられるホームアセット・バイアスを排除し、国内、海外先進国地域、人口増加・成長率の高い新興国に振り分け、株式、不動産、債権、預貯金(又は同等物)に分散投資することが手軽にできるようになった。世界の平均的な経済成長率の恩恵を取り込もうとする、国内外の株式、債券、不動産リートにバランス分散投資する投資信託もある。
リバランス
一定の財産を一定期間運用し、その結果、当初定められた運用比率に戻す作業ルールであり、一定期間運用した結果、「値上がりした資産の一部を売却し、目減りした資産を買い足すことにより、値上がりした資産の利益を確定し、値下がりした資産の単位購入単価を引き下げる」という投資上の逆張り戦略ともいえる手法である。短期の投機的な動きに惑わされず、大きな一時的な利得は得られないが、致命的な損失も回避でき、投資対象毎の大きな変動に左右されず、平均的な投資リターンを生む賢明な運用である。
ドルコスト平均法
様々な賢明な投資家、ファンドマネージャーをも上回る成績を歴史的に実証している長期定額のインデックス投資が、この手法である。例えば、東証トピックスインデックスと同じ動きをなぞるETFを毎月一定日に一定額購入する投資信託を購入する。基準価額が上がれば購入できる数量は少なくなり、基準価格が逆に下がれば購入できる数量は増え、一定期間継続すれば、高値掴みを避けて平均購入コストを下げられる、賢明な投資手法である。上場されている日本の代表的な企業の成長の果実を受け取ることが可能である。
得意分野・不得意分野
自分の得意な個別分野に投資することも可能だ。得意分野をもっと伸ばせが良いのか、不得意分野を克服するのが良いのか。結論は出ている。受験勉強と同じで不得意分野を伸ばす方が、時間当たりの学習効果という面でのコストパフォーマンスは良いだろう。しかし、なかなか着手できない、とっつきにくい、頭に入らないという先入観との戦いが待ち受けている。
投資の場面の選択肢は、① 自分のよく知った職業・分野に関連する日本の株式に投資する、② 自分の住む地元地域の不動産に投資する、 ③ 利回りは低いがデフレ時代に強いノーリスクの長期国債又は格付けの高い国内外債権を購入する、 ④ 海外の経済動向、地政学上の懸念など、現地の具体的事情に疎いものの、表面上の利回り成績の良い、商業施設・オフィスビル・ホテルなどに投資する不動産ファンドを主体としたリートに投資する(もちろん並行して理解を深めて行く必要があるが)、⑤ 金などの現物投資など、様々な選択肢がある。
やはり投資も事前の一定の事前予備学習が必須であり、自ら実際に身銭を切って経験し理解を深めるという訓練コストを掛けずには、期待した成果は得られない。
身近にロールモデルはあるか
問題は身近にイメージ明瞭な見習うべき起業・投資モデル・・・そうなりたい、実現したい、強く惹かれるロールモデルはあるかといいうことである。身近な人の成功体験、永い人生経験に裏付けられたロールモデルをお手本に、様々な図書を参考に学ぶのも良いが、時代的な制約も忘れてはならない。その人の生きた時代、政治経済環境とは異なり、同じやり方でうまくいくとは限らない。過去と同じことは2度起こらないのが投資の世界である。しかし、私たちは先人達が残したが過去の歴史に多く学ぶ必要がある。人間の経済行動は何に大きく左右されるかという、人間の本質に関することはあまり大きくは変わらないと言えるだろう。その意味で行動経済学は人が陥りやすい不合理な経済行動を解き明かす多くの示唆を与えてくれる。過去の教訓に学び、いかに自分に合った身近なロールモデルを採用するかが重要である。そのためには、いろいろな場所に出向き人と出会い、そこに集う人々の中に自分の目指すロールモデルはあるのか、冷静に自らの目で確かめる必要がある。
資産・財産を形成するにはいくつものキャリアパス(経験すべき職務経歴・経路)がある。Ⅰ 労働者・勤労者・サラリーマンとして働く。Ⅱ 専門家としてその分野のエキスパートになる(医者・弁護士・会計士・税理士など)。Ⅲ 自ら起業し事業家になる。Ⅳ 投資家になる。最も賢明なキャリアパスはⅢを経由し、Ⅳになることだと世界的なベストセラーである「金持ち父さん、貧乏父さん」の著者は言っている。
投資に於いて重要な代表項目は、① いつからいつ頃までに、どれくらいのタイムスパンにどれだけ、どれくらいの目標を掲げるかと同時にどれくらいのリスクが許容されるか、② 世界の何処のどういう資産を持つかという場所・地政学上の観点、③ 誰に託すのか、託す会社は信頼に足るか、そしてその実現に掛かる費用、コストは妥当かという信頼性と費用の問題、④ いざ資金化したいと思った時にすぐに資金化できるのかという流動性確保、⑤ さらには思いも及ばぬ想定外の事態となった場合、最悪の事態への対処方法は残されているかである(必要最低限の保障の確保、年金加入、生命保険などのプットオプションは購入しているか)。それ以外にも重要な項目は多岐に及び、学習すべきことは非常に多い。
人生の三分法、又は四分法・五分法
人生を大きくⅠ幼少期(義務教育)、Ⅱ青年期・壮年期(大学・会社勤め)、Ⅲ老齢期(引退・老後)の3つに分けるのは以前からの考えであり、多くのひとがその考えを引きずり、それに捕らわれていたが、近年平均寿命・健康寿命の大きな伸びを反映し、Ⅲを二分割、三分割し、働く・稼ぐ・遊ぶ・楽しむ・投資する・起業するなどアクティブな高齢者が増加している。元気な高齢者がますます増え、様々な要因で、できれば70歳まで働きたいという人も増加傾向にある。人生の折り返し地点に立ち、必要資金は年金だけでは到底賄いきれず、今回のコロナ禍で賃金の伸びは今後も低く抑えられ、経済のデフレ傾向は当面持続し、先の長い人生を見据えて、投資は誰もが真剣に取り組むべき大きな課題となっている。さらに、会社を設立し、子供・孫への事業承継・相続を考え、主要な資産を会社に移し、会社の株式を譲るという選択肢もあり、Ⅲ転換・変動準備期、Ⅳ起業・再活動期・法人活動期(永久活動)という新たな選択肢を選ぶ人も多く出て来るだろう。
人生をいくつかに分けて、その時々のテーマに焦点を当てて努力し、ある程度の達成感が得られれば、自ら環境を変えて、次のステージにチャレンジする。人間の脳はいくつになっても、自分自身を固定的に捉えずに変化に適応させていく人の期待に応えることができる、十分な潜在能力を秘めている。人の常で、年齢とともに体力は衰え、考え方の幅は狭まり、視野狭窄に陥りがちだが、その人の気持ちの持ち方次第では、新たな人間関係、新たな価値観を発見し、様々な有意義な体験・経験を積み、人生の醍醐味を満喫し楽しむことができる。
「人生100年時代」が目の前に広がっている。要は時代の変化を感じ取り、それに適応し再学習し、今まで諦めていた新しいステージにチャレンジし、柔軟に変化することができるかどうかに懸かっている。