家族形態と社会の変化
世界の家族構造は様々に変化しているものの、基本的な規定要素となる親子関係、兄弟姉妹関係、相続制度、内婚(イトコ婚)認めるかなどの指標により分類し、直系家族、核家族、共同体家族と大きく3つに類型化しているが、この類型が、識字率、教育水準、社会の集団的傾向、経済成長のスピード、民主主義の発展段階にまで大きく影響を及ぼしている。
世界を見つめる視点
古来、その地域・地方に歴史的に培われてきた家族の在り方・形態が、社会構造の根本構造を形造っている。そして、その家族形態は社会の仕組みに影響を及ぼし、翻って社会経済は、家族の在り方に大きく働きかけ、影を落とす。今度は社会経済の理屈が家族形態を変えていく。世界各地における家族形態の変遷は、歴史、地理、民族、国家形態まで影響を及ぼし、最終的には人々の存在そのものを直接間接的に規定する社会形態・社会規範・経済成長にまで大きな影響を及ぼしているとする。
フランスの著名な歴史学者であうエマニュエル・トッドは、人口統計をはじめとする様々な統計資料を読み解き、複雑な世界を俯瞰する新たな視点を与えてくれる。その民族・国家が歴史的に変遷し辿った家族形態と社会と歴史の相互作用は、現在の世界を分析する上でも、多くの有益な事実の理解と解釈を与え続けている。同氏は、世界の家族の歴史的変遷を研究対象として、その実態を様々な統計資料からその意味を解き明かす、人口・歴史・民族・人類学に関する分野の第一人者である。
同氏は家族形態を、大きく3つに類型化しているが、先進国を中心に簡略化した例をとれば、
英米
「絶対的家族(親の遺言で相続者を指名)」・・・英米、欧米は完全核家族型であり、長子以外は、家を出て、新たな生活の糧を求め、新たな職業を見つけ、独立した家族を形成するのが通例で、「創造的な破壊」による企業経営の革新、ベンチャー企業が多く誕生する要因ともなる。
フランス
その中でもフランスなどは「平等主義的核家族(平等に分割相続)」、徹底的な個人主義に基づく平等主義、男女も平等な相続権を持つ
ドイツ・日本・韓国・スウェーデン・ノルウェイ
「直系家族(長子相続)」・・・ドイツ・日本・韓国・スウェーデン・ノルウェイなど、その家族形態も、未婚の若者と高齢者単身一人世帯が増加し、変化しつつあるが、根底に流れる基調は、権威主義的な家父長制度、長子相続の流れがまだ根強く、それが年長者に対する敬意と社会の安定性をもたらしてきたが、ここに来て、少子高齢化化により家族を維持できず、その家族制度も時代の波に洗われ、変貌を遂げつつある。
中国・ロシア・北インド、フィンランド、ブルガリア
「共同体家族」・・・中国・ロシア・北インド、フィンランド、ブルガリア、など、男の子供が結婚後も、親の家に住み続ける。権威主義的な父親の下に兄弟が同居し、一つの巨大な家族となる。
旧来の形態からの変化・移行
戦前の権威主義的な家父長制を背景とした日本の家族形態の原型は農村であり、戦後の急激な人口増加と食糧難を背景に、工業化に必要な労働力を農村は都市部に大量に供給した。戦争特需を背景に工業生産は急拡大し、人口は都市部に増々集中し、工業化・都市化が大規模かつ広範囲に進行し、大戦後の世界においても稀にみる高度経済成長を成し遂げた。様々な社会変化にも拘わらず家父長制を潜在意識の中で引きずり、その家族観・社会観が経済成長にも色濃く反映され、戦後の日本・ドイツに共通して見られるように、統率の取れた集団的力の発揮は生産性・効率性の面からも戦後の経済成長発展に大きく有利に作用したと言えるだろう。
日本の現状
その後1990年代を境に、30年間で急速に晩婚化、核家族化、出生数の減少、少子高齢化が同時に進行し、核家族世帯が増加し、家族構成も大きく変化した。経済はその影響を受け、低成長・デフレ経済・GDPの長期停滞・格差社会の傾向を強めている。
規律正しさ・礼儀正しさ、清潔好き、几帳面を好む国民性などは、世界の日本の国民性に対する見方として定着しており、社会は大きく変貌を遂げたにも拘わらず、男女格差、女性の社会進出、性的少数者に対する対応などでは対応が遅れており、現代社会が求める新しい社会課題解決には、旧来の社会意識からの脱却が一人ひとりに求められているのだろう。デフレ経済の長期化とそれに伴う実質賃金の目減りにより、生活水準維持の必要に迫られ、女性と高齢者の労働参加率は逆に高まっているのが現状があり、長寿社会の実現と人口減少、少子化・核家族化などが進行する成熟した日本経済は、従来の経済成長追求型社会から定常巡航経済社会への痛みを伴う移行調整過程にあり、それは個々の家族の形の変化とともに社会に実感的に表れている。