分断と格差
世界中で、分断と格差の問題が取り上げられている。
その傾向が更に強まったせいなのか?
あるいは多くの人々において、その解決が急務との認識が共有されたせいなのか?
格差拡大の理由
社会問題の根本原因である経済格差解消問題にとり組む、著名な米国の学者であるJ.E.スティグリッツは、資本主義経済は放置すれば、所得格差を固定拡大する方向に働くことが、最近の様々な学術研究によって明らかにされているが、世界各国の事情は一様ではないことも明らかにしている。
世界で最も経済格差が深刻であるとされる米国を例にとり、その大きな要因は、富裕層が政治的影響力を得てその資金力によって、社会・経済の仕組みである選挙制度を含めた法律などのルールを自分たちに有利に取り決め、社会経済に組み込み、有利な政治経済状況が持続する状況を作り出している結果であるとする。(「仕組まれた経済」格差拡大の理由、J.E.スティグリッツ(コロンビア大学教授、2001年ノーベル経済学賞受賞)
分断と格差
世界の南北問題、中国・ロシアの地政学的なリスク(ロシアによるウクライナ侵攻など)、一部の先進国グループと発展途上国の間で繰り広げられる、経済発展と資本・技術・資源をめぐる自国第一主義と経済ブロック化による対立、持続的な発展を可能とする社会を目指す企業・市民社会グループ・個人と既得権益を温存し急激な変化を回避しようとする様々な集団との対立、世界的な大企業による市場支配構造と国内中小零細企業・個人事業の存続をかけた利害の対立、超高齢化社会が目前に、財政的困難と公平性と受益者負担の問題による増税と世代間の対立、所得格差の拡大による相対的貧困層の拡大と階層の固定化、ジニ計数の拡大傾向(富裕層に富がますます集中)などは、現代社会があらゆる局面で分断と格差の問題に直面する社会となったことを物語っている。
GDPと成長神話
世界は飽くなき経済成長を追い求めている。GDP成長率の指標は各国政府の政策の善し悪しを判断する物差し、免罪符となり、追求すべき最大の課題となっている。GDPの増大がすべての問題を解決すると思われているが、現実の世界は総じて低成長の段階に移行しつつある。世界の人口増加は以前の予想よりもっと早く、今世紀中にピークアウトする可能性が高いという。経済の体温と言われる市場金利は世界的に、特に先進国において低下傾向であったが、ここに来てアメリカをはじめとする先進国は、コロナからの需要回復期に差し掛かり、雇用の逼迫、物流の逼迫、エネルギー資源の高騰、原材料・食料の需要供給のバランスが崩れ、インフレ圧力が高まり、先行き金利上昇を見込む声が圧倒的に高いが、一過性であるという見方も一部にはある。最も恐れるのは、世界的インフレ傾向と金利高が経済を冷やし、不況が同時に進行するスタグフレーションである。
脱炭素とエネルギー問題
昨年は環境問題の象徴的な問題として、炭素エネルギー資源の大量消費に起因する、地球温暖化による影響を深刻に受け止め、その対策を講ずるため、認識の共有から行動への転換を呼びかけたという意味合いで画期的な2021年であった。
具体的な炭素税の導入などの脱炭素エネルギー転換政策の計画発表がなされているが、その原動力は、先行する気象学者・科学者の危機感とともに、世界各地の若者自身の未来への危機感からの抗議行動に端を発しているが、持続可能な世界への転換、経済成長至上主義からの脱却を待ったなしの人類全体の課題として訴えかけている。これは世界規模の動きとなって現れ、発達した通信技術により世界の距離が縮まり、共通認識が高まった結果であろう。しかし、脱炭素の動きは紆余曲折を経て思うようには進まない蓋然性が高い。急激な変化は、取り残された資源、技術、投資を陳腐化する。既存権益を守ろうとする資本の大きな存在もあり、脱炭素化経済は一朝一夕には実現しない、長期的でかつ困難な課題である。営利目的の企業による脱炭素を装う表面的な解決策の提案も数多くなされるだろう。
ウクライナ危機とエネルギー資源
世界情勢の変化によってその進行速度は変化する。ウクライナ危機により、世界は、特にEUは当面のエネルギー資源の確保が優先することになるだろう。当面の間EUならびにドイツにおける石炭火力発電の復活、原子力発電の終了期限延長などの策が採用される可能性が高まるだろう。この危機は反対側の立場に立てば、原子力および石炭・石油資源の延命・再登場を願う旧来のエネルギー資源国にとっては一時的な猶予期間をもたらすだろう。また、東西冷戦の復活ともいえる事態が世界で進展しているが、世界の潮流は近い将来にメインプレイヤーとして、中国・インド・アセアン諸国が登場し、その資源・人口増加・高等教育・工業化・ITなどの先端技術面においても影響力を行使し、その発言力を今後一層高めて行くだろう。
分断と格差の解消策はあるのか
分断と格差の拡大は、人類の発展史上何処にでも現れてきた普遍的な現象であるが、放置すればその弊害は増し、その構成員間の矛盾と対立は最終的に多大な犠牲と悲劇を招きかねない。これ以上の地球温暖化抑止とともに、相互理解により世界的な分断と格差拡大の進行を止めることは急務である。ではどうすれば、その問題を解決の方向へ導くことが出来るのだろうか。
逆説的ではあるが、いつの時代よりも今日ほど世界が様々な分野・レベルで分断と格差に対する問題認識を、共有するようになった時代もかつてない。SNSによる発信は言葉の壁を乗り越え瞬時に世界に伝播し、世界の政治経済状況と人々の思いは、時々刻々と伝わり、誰にも止められない。
一部の、既存富裕層と既得権を守ろうとする人々を除き、世界の共通認識は、分断と格差拡大の問題の根本的な原因の本質に迫っている。認識は共有されつつある。問題は見えている。人々の英知による解決策は必ず存在し、克服される時代が必ず到来すると信じたい。