高齢化社会の恩恵と課題
高齢化社会の恩恵
高齢化社会は悪いことばかりではない。高齢になっても元気で自分に合った形で、社会で働くことは自らの健康長寿にも社会にとっても、大いに貢献をする。15歳から64歳までの生産年齢人口は2020年で7406万人(59.1%)、逆に65歳以上は28.9%と30%に近づいているが、高齢者などという括りが役に立たないくらい、余りにも元気な高齢者が多いのだ。皆さんスマホを上手に扱い、コミュニケーション能力も高く(特に女性が多い)様々な活動に参加し、自ら情報発信されるという、ちょっと前には考えられない光景があちらこちらで出現している。
若いころの苦労はあったにせよ、日本の歴史の中で、今ほど、元気で自由な高齢者層が出現した時代はなかったのではないだろうか。今の高齢者は比較的経済的にも時間にも恵まれた戦後初めての高年齢世代であるということは確かだ。個々に個別の家庭事情、経済格差の大きいことも確かだが・・・。
直面する最大の課題、自らの殻を破る
家庭の事情、経済的な問題もある。健康の問題ももちろんある。人生の課題の本質は年齢ではない。人生いくつになっても一歩を踏み出す勇気・気力が必要であり、それがまた深い喜び・満足感をもたらす。社会が押し付ける高齢者のイメージに自らが嵌り込み、そこから抜け出せない。高齢者が自らその型、殻を抜け出し、既存イメージを破り、再びチャレンジすることができるかどうかで、その結果の評価は各自に任せればよい。社会にはその要請に応える仕組みがもっと必要だ。
年金が頼りで、専守防衛の高齢者が多いのも事実だ。攻撃は最大の防御という言葉がある。まさにその通りだと思う。守りに入れば入るほど、益々縮小均衡に陥ってしまうのが落ちだ。守り続けるには、時には攻めも必要であり、「老後」は余りに長く、「余生」という言葉が廃れ、人生の新たなステージに向き合う姿勢が誰にも求められている。
人に期待せず、自らに火をつけ燃やす
現在の自分と向き合い、自らのできること、してみたかったことにチャレンジする、ちょっとした冒険を試みる。「年寄りの冷や水」などという家族の冷たい視線をものともせず、ご近所のうるさい目も気にせず、一歩踏み出す。その気になれば、政策的に様々なツールが用意されており、社会的な仕組み、取り組みもある。あとは一歩踏み出す気力・気概があるかどうか、情熱のエネルギー量に、自らのエネルギーで火を燃やせるかどうかに掛かっている。趣味・スポーツ、コミュニティ・ボランティア活動、就労、就農、自立型自営業・起業・創業など、自らの足でもう一度立ってみる。
現実に直面する
やればやるほど、慣れないことにチャレンジする大変さが身に染みる。こんなはずではなかった、年を取りこんな苦労を始めるなんて、経済的にも厳しい。自分はなんて愚か者だとつくづくと思う。しかし、そのうちに悪いことばかりではないことに気づく。いいこともある。それは、自己満足であるが、頭も体力もそれなりに付いてきて、少し慣れてきた。ペースも掴みかかけてきた。自らの力で自分の殻を少し破り、少し違う風景・景色が見えてきたではないか。よし、もう一歩踏み出してみようと思い直す。
社会的な仕組みの整備
社会政策的には、健康長寿の促進策として、高齢者医療は予防に重点を移行し、本人が希望すれば、学び直しのプログラムを十分に準備し、有用なスキルを身につけ、いつまでも働く機会を多く提供する。週二三日でも、午前中の早い時間など、高齢者に合った働き方を考慮し、一定の収入が得られれば、年金だけに頼ることもなく、一定の消費生活を持続し、趣味余暇の支出を増やすこともできるだろう。往年の旺盛な消費世代としての記憶もあり、今以上にシニア経済が活性化するだろう。
「子孫に美田を残すな」という昔からの戒めの言葉もある。高齢者世代からの金融資産・貯蓄の若い世代への早期移転により若者の育成・応援を期待するだけでなく、自らの責任で道を切り開く気概がいつの時代も、どの世代にも重要だ。戦後の激動の人生を生き抜いてきた経験豊富な高齢者には、若い世代に対し、様々な経験を促し、働きかけ、そのような場を提供する役割が求められるだろう。さらに高齢者自らが新たなチャレンジを続け、人生を再発見するその姿は、人間の可能性と人生の奥深さを示し、若者に大いに勇気を与えるだろう。