少子化と地価高騰、地方の空き家対策
少子化の勢いが止まらない。最新のデータでは、2023年の出生数は、72.7万人(前年比△5.6%)合計出生率は1.20であった。2024年の出生数はさらに減少し70万人を割り込むと見られている。
国土交通省が不動産の基準地価(7月1日時点)を9月17日に発表し、住宅地、商業地等全用途の全国平均が1.4%上昇となったが、これはバブル期以降の1991年以来の33年振りとなる上昇幅である。東京、大阪、名古屋などの大都市圏の全用途が前年より1.2ポイント高い3.9%の上昇となった。2024年1月時点での全国約31万5000地点の標準宅地の平均は前年比で2.3%プラスとなり、3年連続上昇が話題となっている。
経済活動の再開、商業地の再開発の活況、北陸新幹線の延伸効果なども一つの要因となっている。都市部のマンション価格の高騰が止まらない。東京都の中心部港区・千代田区・中央区・渋谷区などは、中古マンションでも1億円超の物件が数多くみられる。
少子化とは無縁のように見える土地価格、中古マンション価格であるが、これは大都市に偏在する高所得・富裕層の金融資産に裏付けられた購買力であり、平均的な庶民生活感覚とはかけ離れている。
宅建協会が全国の20才以上の男女に実施したアンケート調査(不動産購入に関する全般の意識調査)の中で不動産選び、店選び、住宅ローン、省エネ住宅等多岐に及ぶが、その中でも、経済環境に関する意識調査では、長らく続いたデフレ経済からインフレ経済に移行する物価高騰のなかで、心掛けていることは何かという問いに対する回答で、上位は「節約を徹底する」(35.6%)、「食費を節約する」(33.2%)、「大きな買い物を控える」(31.0%)となっている。これが庶民の偽らざる実態である。
全国の空き家の数は、900万戸で過去最多となっており、総戸数に占める空き家の割合は13.8%と過去最高となっている。空き家対策については今年6月に発表された、国土交通省による「不動産業による空き家対策推進プログラム」(不動産・建設経済局発表)にて、急増する空き家・空き室問題への対応として、新たな働き方・住まい方へのニーズとともに、不動産業界の果たす役割への期待などが書かれているが、問題は、まだ住める住宅が放置され、劣化し、周辺環境への悪影響、除却コスト(特にマンション)が膨れ上がり、資産価値を失うだけでなく、地方自治体の財政へのしわ寄せとなりつつあるというのが問題意識の所在のようだ。
対策として、相談体制の強化、空き家対策の専門家の育成とネットワークづくり、空き家管理受託の透明化、空き家売買時の報酬規制の見直し、不動産コンサルティング業務の促進、不動産DXによる業務効率化などを掲げるが、不動産業界に従事する人の平均年齢の高齢化も相当進んでいるという現実があり、宅建業者の事務所数も減少傾向にあり、全国で宅建業者の事務所がないゼロの自治体247(14%)、1-5店舗の自治体392(22%)、6-10店舗の自治体197(11%)となっている。全国の過疎化が進む自治体の約半数は不動産業の事務所自体も足りないのが現状である。
一方で、2000年以降、正規労働者の実質賃金は長く横ばいであり、最近ようやく実質賃金の伸びが経済界の話題となっているが、非正規労働者はその割合が40%近くに達しており、2005年に1634万人が2023年には2124万人と大幅に増加している。これは女性の労働参加率の増加(世界でも最高水準)、定年高齢者の雇用延長、再雇用、男女ともに健康年齢の伸長、労働に対する意識の変化(一生働きたいなど)とともに、生活防衛等の要因による短時間労働への就業意欲が大幅に高まった結果である。
そこで、これらの課題解決策として高齢者が地域の不動産業に携わる、従事する仕組みづくりを後押しするというのはどうだろうか。
高齢者が地域の不動産業に就労、又は自ら進出開業することは、資格取得、事務所開設などかなりの運転資金が必要で、一般的にハードルが高いが、意欲と経験のある地域の高齢者を不動産コーディネーター兼アドバイザーとして不動産業務に就労することを行政が積極的に支援するというのはどうだろうか。実務的なハードルは実務にたけた若年者にサポートをお願いし、不動産業務に従事するうえで、今までに培った社会経験、人脈、地域の人とのつながり、地域の実情把握など、アドバンテージはいくつもあるだろう。
例えば、若い子育て世帯が必要とする、安価で良質な住宅の取得に高齢者が一役買い、培った経験とスキルを活用し、新たなニーズを掘り起こし、顕在化させる。住まなくった古家を地域のリフォームを手掛ける工務店とタッグを組み、メンテナンスを行い、古家・空き家を再生させる。自治体の空き家バンクの活用などとともに、経済原理を乗り越え、未来を託す若者に使ってもらえるなら比較的低額で譲る・貸すということに賛同する人を募り、また掛かる費用の負担問題の利害調整を図る必要があるが、所有者・リフォーム業者・住む人・子育て世代に喜ばれる事業活動である。若者と高齢者がともに住む街づくりに、元気な高齢者の意欲と潜在的な力を発揮していただき、若き子育て世代とともに、そこに携わる誰もが喜ぶ、「三方良し」となる空き家活用策が必要とされている。