2023年を振り返って
デフレからインフレ社会へ
日銀は2023~24年度の消費者物価指数の前年度比上昇の見通しを引き上げ、23、24年度とも2.8%にした。22年度の実績(3%)を含めれば3年連続で2%の物価上昇目標を上回る。(日経朝刊23.11.1)
日本経済は、長期の低成長・デフレ経済から抜け出し、インフレ傾向が持続する社会へと変貌を遂げたが、給与所得の伸びからインフレ率を差し引いた実質賃金は、依然マイナス傾向が続き、庶民の実感としては、食料品・水光熱費が高騰した分だけ生活費を削るという自衛策しかない。
労働力不足はあらゆる業界の共通の困難な課題となっており、社会の失業率全体は低く抑えられているものの、中小企業の給与・賃金の引き上げ原資は乏しく、中小企業は人件費の増加か、省力化機械設備投資かという選択を迫られており、必要資金の割には、売上増加や生産性の向上・利益に結びつかず、将来の後継者問題も大きな問題となっている。
自動車関連産業の最高益
好調な日本の産業を牽引する自動車業界であるが、トヨタ自動車系の主要8社の業績は特に好調で、2023年4~9月期連結決算では、デンソー、アイシン、豊田自動織機など全社が24年3月期の純利益予想を上方修正した。そのうち5社は最高益を見込む。車の生産回復や円安の効果が、部品メーカーや商社にも波及している。
上場企業の4~9月期決算の集計は純利益は3割増と最高益を更新するペースである。
EV競争にも変化が
世界各国は様々な思惑により、急速に自動車のEV化へと市場の舵を切ったが、その製造コストの約半分を占める電池の製造コストの鍵となる希少金属・リチウムなどの資源を産出する国とその開発権利を確保したメーカーが優位となったが、その電池の製造技術の開発は困難を極め、電池の量産化の壁は厚く、簡単にはその製造量は倍増できない。世界から投資を呼び込み自動車技術を巧みに取り入れた中国のEVを含む自動車生産台数は世界最大となった。地球温暖化問題の分野で、先導的な目標を定め、主導的な役割を演じたEUも、資源の壁、エネルギーコストの壁に阻まれ、先行投資に見合うだけの利益を手にできそうにない。
膨張する世界の債務
2008年のリーマンショック時より世界全体の債務は数倍に増加したという。コロナ禍からの脱却を目指した中央政府・銀行による過剰なファイナンス、ポピュリズム的な政策によるバラマキは留まることを知らず、過剰な資金供給は地政学的危機と相まって、各国はエネルギーと資源の確保に走り、世界的なインフレを招来し、今度はインフレを抑えるための高金利政策に世界が一斉に舵を切った結果、今後各国で景気後退に直面すると見られている。国家債務の増加傾向は世界共通である。異様に膨らんだ世界の債務の清算は如何なる形で訪れるのだろうか。世界的な過剰流動性がもたらす、様々な急変動リスクが今後の世界を襲うだろうと識者は警鐘を鳴らしている。
アメリカの好調な経済と政策金利の高止まりとその影響
アメリカは来年の大統領選挙を前に、様々な社会的な課題を抱えてはいるが、経済は粘り強く、マグニフィセント7と言われる世界的な主要ITテクノロジー企業は宇宙開発・SNS・衛星通信・クラウド分野から、インターネット誕生以上のインパクトを全産業に及ぼすといわれる生成AI技術の発展に重心を移し、アメリカ経済を牽引している。経済のソフトランディングは可能といわれている。政策金利は上限に達しており、来年は利下げが見込まれているが、当面は高金利の高原状態が続きそうだ。質・量ともに世界最大の金融の拠点である米国の金利動向と経済活動の動向は、今後も世界経済に最大の影響を及ぼすと見られている。
日本再評価の動き
そんな中で、日本は地政学的攪乱要因も比較的少なく、比較的安定的な政治環境と共に、コロナ禍からの消費の回復、特に好調なインバウンド観光・旅行・宿泊需要、円安進行による製造業の好調な輸出、飲食業の回復、デパートの高級品の売れ行き好調、インフレ率に対応した来年の3%以上の賃上げ期待、半導体産業挽回への政府に積極的な支援投資策、東証の改革、新NISAによる投資意欲拡大など、経済好転の要因がいくつも見えつつある。無論、人口減少・少子高齢化対策、所得格差の拡大、都市と途方の格差、その解決が見通せない財政問題など多くの課題はあるものの、その環境変化への対応力と、多彩な自然環境と魅力に富んだ文化的風土を育んだ国民性、世界で目覚ましい活躍をする各界スポーツ選手、日本各地でインフラと都市開発が進み、日本の不動産・株式投資への関心は高い。