2023年、不動産をめぐる動き
アメリカ・中国の不動産
アメリカにおいては、過去の金利の変動が激しく、固定金利住宅ローンの選択が全体の7割を占めるという。住宅ローン金利の急激な上昇は、中古住宅の売却を見送らせ、新たに高金利の住宅ローンを組むことを躊躇させる要因として働いており、中古住宅市場の在庫が減少し、価格自体は維持されている。FRBは都市部の商業用不動産の市場動向について懸念を表明している。都市部中心街のオフィス需要が引き続き弱いという。
中国では、恒大不動産グループおよび碧桂園の市場に対する不安がクローズアップされ、不動産バブルが弾け、不動産投資は逆回転を始めている。中国経済のGDPの3割を占めるともいわれる不動産投資に大きく依存してきた中国経済は、不動産価格の極端な低下は不動産のマイナス資産効果となって現れ、今後長く中国経済全体の足を引っ張る可能性が高い。さらに世界的な分断政策により、海外マネーが中国から逃避する傾向もその懸念を強めている。
相対的に優位な日本の経済環境
大企業中心に企業業績は好調を維持しており、通年の業績予想を上方修正する企業が相次いでいる。コロナ禍を脱し、インバウンド需要も回復し、観光・旅行・運輸・宿泊・飲食などのサービス業はコロナ前の状態を回復し、30年続以上続いたデフレ経済から脱却し、インフレ傾向が定着しつつある。円安による輸入資源・エネルギーのコストアップ、人手不足による人件費の上昇・食品価格の広範な値上げ・ガソリン代・水光熱費の上昇など、社会全般のインフレ常態化の意識は浸透しつつあり、更なる値上げが続くという社会全般の雰囲気はさらに強まっている。3年前に日本がインフレ社会となることを誰が予想しただろうか。多くの人々がこの傾向が続くとみていることがポイントである。
賃金の上昇
22年は大企業中心に上昇し、主要企業の賃上げ率は3.6%と30年ぶりの高水準となった。しかし物価の持続的なインフレ傾向が定着し、物価上昇率を差し引いた実質賃金はいまだマイナス傾向にある。企業物価指数は2020年を100として117となり、前年度対比で9%の上昇、消費者物価指数は生鮮食料品を除く総合は103となり、消費者の生活実感とはかけ離れているが、企業物価指数からみるとかなり低い水準に留まっている。
地価上昇
地価上昇は地方都市まで波及し、全国的な上昇傾向にあり、マンション価格も高騰している。日本の地価は、7月に国税庁が公表した路線価は、全国平均で1.5%の上昇。9月にまとめられた基準地価は国交省と都道府県が主体となって取りまとめているが、例えば、愛知県の住宅地で2.1%、商業地で3.4%の上昇となり、いずれも3年連続で、住宅地・商業地ともに上昇している。
日銀の金融緩和策
日銀は低金利金融緩和策を引き続き推し進め、企業業績は回復し、国の所得税・法人税の収入は伸び、現在の状況では経済に対する長期的なマイナス面もさほど深刻に受け止められず、逆に経済成長にプラスと受け止められ、企業の設備投資意欲も旺盛である。個人の貯蓄は、来年から始まる新NISAの拡充・無税枠の拡大もフォローとなり、2000兆円を超える個人貯蓄も預貯金から株式・投資信託等の有価証券投資等に本格的に動き出す気配があり、企業のガバナンスの改善と相まって、日本向けの不動産・株式投資は世界から有望な投資先の一つと見られるようになってきた。
大企業の好調な決算
特に自動車産業は引き続き好調であり、電子部品・半導体不足による生産調整も峠を越え、今期の生産台数見通しはコロナ前を上回っており、そこに円安がプラスに作用、し、トヨタ自動車は、来年3月期決算では3兆円越えの史上最高の利益水準が見込まれている。自動車産業全体の好業績は日本経済の好調さを印象付けており、産業全体の大きな牽引役となっており、活発な設備投資が相次ぎ、物流・不動産・建設業の活況を下支えしている。
活発な都市再開発
東京、大阪、名古屋、福岡などの都市再開発も活発であり、マンション販売も好調を維持している。世界でも特別な人口集積地である東京圏は3700万人という世界最大の人口を擁し、非常に効率的なヒト・モノ・カネのネットワークが好循環を生み出している。自然災害に対する脆弱性は以前より指摘されているものの、未だ差し迫った課題とは捉えられず、都心を中心に再開発の動きは活発であり、高層ビルの建設、商業施設の建設計画は目白押しであり、世界的な投資対象としての要件でもある、市場の大きさ、流動性、政治的安定、治安の良さ、交通利便性などは不動産投資市場としての比較優位性を世界が認め、世界の投資家は有望な投資の選択肢の一つとみている。東京の家賃も非常に高いが、それでも世界の主要都市のシンガポール、ロンドン、ニューヨーク、香港に続いて世界の主要都市では第5位となっており、円安もあり、未だかなり割安な水準にあり、人口も減らないと予想されている。今後、東京圏と比べ、さらに割安な、大阪、名古屋、福岡、札幌、仙台、広島などの各地にも及ぶことが予想される。
ついに始まった金利上昇
日銀が長期金利の上昇幅の上限を実質1%まで容認したが、誰もが遅かれ早かれ日本の金利上昇は不可避と見る外国投資家は、株式・不動産・債権などの日本への投資機会の関心を高めている。若者の間で金利が本格的に上昇する前に、長期固定金利でリスクヘッジしたいと考える動きが、住宅購入の駆け込み需要を後押しする動機ともなっている。国債利回りと共に、長く続いた日本の史上最低水準の固定金利の代表であるメガバンクの10年固定金利、フラット35などの長期住宅ローン金利の引き上げがついに始まった。今後も金利の上昇基調は否めず、若者向けに50年の住宅ローンを組む銀行も10行ほどになっている。
空き家問題
日本全体としての住宅事情は在庫余剰であり、空き家問題は深刻化し、全国の空き家は近い将来1000万戸の水準に達すると見られ、様々な対策が実施されているが、全体としてこの大きな動きを止めるのは非常に困難である。核家族化により子どもが相続した親の空き家には住まないケースがほとんどである。理由は様々にあるが、新しい住まいには、自然災害に対する耐性、同時に断熱・省エネ機能性の高い住宅を求める傾向が日本では顕著であり、中古住宅のリノベーション投資費用の高騰は、期待される賃料利回りとのギャップを埋められないでいる。都市機能の集積・集中傾向により、住宅購入者の駅近くで利便性を求める動きは増々加速され、社会のデジタル化も急速に進み、不動産探しもインターネット検索が主流となりつつあり、当初から駅まで徒歩10分までの条件の物件しか検索しない、というような傾向にも現れている。
不動産の二極化
人口減少には歯止めがかからず、地方への流出も若干みられるが、若者の多くは未だ東京に引き寄せられている。特に様々な地方の社会的制約から抜け出し、自由な職業選択の可能性と相対的に高い賃金を提供する大企業の集積地である東京は、魅力的であり、世界最大の集積に見合う都市機能を提供しており、インバウンドの需要も高い世界的な人気都市であり、地方創生・地方分権・地方移住・分散の流れは未だごく一部に留まっているのが現状である。
コンパクトシティ政策を推し進め、機能を高めた利便性の高い都市部と人口減少に悩む地方の格差は開く一方であり、今後も空き家は増え続け、不動産価格もさらに二極化していく動きは当面止まりそうにない。