経済成長の遠因
世界の国々の経済成長の要因には様々な要素が混在しているが、そのカギが今変化している。変化する要因の中でも、現代経済社会の成長を阻む最大の要因となりつつあるのは、男性優位の近代社会の社会経済構造と、旧弊にとらわれた意識とそれに基づく社会制度と仕組みや、子育てを女性にだけに押し付ける伝統的慣習と社会的意識構造である。今、社会経済を活性化する取り組みの中で一番注目されているのは「社会的ジェンダーギャップの解消」の取り組みである。言い換えれば、単に女性の社会進出を支援する目的のみにとどまらず、高度に発展した現代の経済社会の構造を質的に変化させ、持続可能な社会経済発展を促す仕組みとして必要不可欠な、女性の持つ様々な能力とその力の発揮、それを促進する社会的取り組みである。よく考え議論された社会経済の仕組みと制度設計と同時に、男性中心の社会を歴史的な自明の事実として受け止め、疑わない男性、特に大企業・政府組織をはじめとする様々な社会全体を動かすような中枢組織の要職を占める、中高年男性の意識変化・改革が不可欠となるだろう。
女性の社会進出を促す制度
北欧、ヨーロッパ諸国で教育・社会・政治面で、男性をしのぐ女性の活躍が顕著である。その違いは、女性の持つ力を発揮できる社会にするための環境整備に、たゆまず力を注いできたかどうかに掛かっている。子育ては、各家庭の個別事情に合わせた違いはあって当然だが、柔軟で必要十分な育児休暇取得制度、子育て費用負担の軽減策と給付制度、育児がひと段落したあとの女性の社会復帰プログラムの整備、会社重要ポストでの登用のための教育訓練制度などをいかに構築するかなどである。女性の社会進出をいかに容易にするかが、今後の経済社会発展のカギ、ひいては現代社会の焦眉の課題である、少子高齢化社会の課題をスピードダウンさせ、変化させるカギを握っていると、各国の有識者の提言と社会的ジェンダーギャップの国際比較統計データは物語っている。
女性の活躍する社会
女性の持つ様々な能力なかでも、特にコミュニケーション能力、協調性、他者への理解・共感能力、課題解決に取り組む持久力などは男性中心社会の歪を是正し、バランスを図り、社会的な失敗を避けるだけでなく、集団的な共有の知恵を活かし、多様性を包摂し落伍者を少なくし、過度な教育競争と社会の過酷な所得格差拡大による階層対立を和らげ、社会集団全体の調和と発展を図るうえで、女性の持つ特性と母性は大きな力を発揮するだろう。女性の進出を奨励する社会とそうなっていない社会との差が、今後世界の国々の経済成長の発展を大きく分ける決定的な遠因となって、近い将来顕著に現れてくるだろう。
人類発展の要因
人類の進歩・成長・発展を促した最大の要因は、言語の獲得とコミュニケーション能力の発展を抜きに語れないだろう。個人が経験し獲得した知恵と技術の共有化、離れた場所での共同作業を実現する、言葉の集積概念の形成が集合知を生み、諸制度・法律・ある種の仮想の価値観に基づいた共同作業を可能としたことである。このことが人類に特有な、一人では成しえない集団の進歩・進化を特徴づけている。広範な分野での発見・発明を互いに利用し共有しその土台に依拠して、科学技術の飛躍的進歩とその成果、人類は共有の財産である文明の発展の恩恵を大きく蒙ってきた。
男女の社会的分業と役割分担
数十万年前の人類の歩みのなかで共同での狩猟・食料採取・農業生産のなかで行われる共同作業と分担は、次第に男女の社会的分業と役割の固定化を生み、宗教祭祀の体験や、対立する部族間の争いを通して形成された男性優位社会が永く続き、その経験は地域固有の民族共同体意識を醸成し、それが専門家集団によって明文化・規定化され高度化し、共通の土台となり、さらに強固となり、集団をまとめる宗教や国家意識となるが、多くの場面で女性は隅に追いやられた。富を形成・蓄積する強力な手段である貨幣経済制度への発展は、反面多くの地域紛争を巻き起こし、多くの武力衝突を引き起こした。
弊害が表面化
男性中心社会の、力の論理による競争原理は、世界の至る所で長い間、文明・文化・交易上の摩擦と衝突を生みだした。資源・食糧・エネルギーの争奪戦を展開し、地域紛争・国際戦争を巻き起こし、苛烈な自由主義市場経済の競争は近年の地球の環境破壊をもたらし、地球温暖化を進め、経済成長を妨げる負の要因としての側面を表面化し、現代社会はその限界点を超えようとしているように見える。
歴史的な経済成長の素因・遠因
- 伝統的な歴史認識、歴史的背景の共有を促したのは、伝統的な教育制度の浸透であり、教育に対する国民・国家の積極的な取り組み
- 近代における農業技術の発展により可能となった人口増加、特に若年労働人口の増加と工業化社会に必要な労働力を生み出す都市化と教育機会の拡大及びその無償化
- 先進技術の習得のための海外派遣・留学生の還流・還元
- 近代の西欧列強の力による自国経済の世界市場への取り込みと、内外からの圧力による開国は、結果的に先進科学技術の取り込みを果たし、世界の貿易交流、市場への参入の足掛かりとなった
- 地理的な資源の偏在と労働集約的な軽工業産品生産技術の発展によって、農村も貨幣経済に巻き込まれ、次第に従来の農村経済は疲弊し、農村を離脱した農民の多くは都市に向かい、工場労働者となった。その安価な労働力に支えられて可能となった地域固有の産品を最大限に活かした交易により、交易による外貨獲得は可能となり、近代産業を生みだす資本蓄積が可能となっていった。
- 工業化・都市化による労働の質的変化、肉体労働から知的労働、ブルーカラーからホワイトカラーへ、軽工業から重工業さらに知識集約型、資本集積型産業への発展
- 次第にオープンな交易制度・外国資本の受け入れ態勢、商習慣の改善・貿易の参入障壁の撤廃のための法律などが整備され、広範な義務教育の普及と高等教育が進展し、科学技術の発展を促し、グローバル化した世界規模での市場・資源・エネルギー争奪戦が資本の流動性を高め、金融制度の発達を促し、金融経済化した今日の世界経済をもたらした
- 国際的競争原理の確立とそのスタンダードを作る先進国による、国際交易の支配構造の固定化、超過利潤の獲得による南北分断
- 経済発展を支える労働力の需要増加は核家族を生み出し、労働市場の形成は雇用の流動化と多くの非正規社員を増加させ、実質賃金の低下、実質賃金の相対的低下・窮乏化をもたらし、社会的格差を増大した
- 一方で、核家族化による家庭女性の労働力化は、女性の社会進出を促し、女性の育児・家事労働の負担を軽減する電化製品・商品の登場、生活様式の変化、社会意識の変化や託児制度の社会的整備などにより、女性の労働参加率は飛躍的に高まった。
ジェンダーギャップがその社会の先進性、進歩性を表象する
資産格差による社会階層の固定化、格差拡大、少子高齢化による労働力不足、内在自発的なイノベーション力の相対的な低下、若者の現状追認傾向、起業意欲の低下などが指摘されて久しい。
大企業の寡占化による産業社会の固定的支配構造と、本来国に期待される社会経済施策の主導的な役割への期待増加とともに財政支出は増加し、その財政規模の拡大と、企業社会における組織の巨大化傾向とともに個人の果たす役割は低下し、社会の活力の源泉である社会階層の流動性は低下し社会の固定化をもたらした。起業意欲を持った個人の相対的減少傾向が指摘される現代、政策的にも財政的にも支援の手を差し伸べ、起業する若者起業集団を育むインキュベーションセンターの設立と財政支援策は社会的にますます重要となっている。
男女間の社会的役割分担に対する、社会意識変革が徐々に進行しているが、その変革のスピードがその国の発展を大きく左右する要素として、経済成長の遠因となる時代となった。そのための男性の側の意識改革と多数の女性参加のもとでの会議が、女性目線による社会制度・法律の整備に結び付くよう、強く要請される時代となった。人類は様々な歴史的発展段階を経験したが、現在の男性中心社会の持つ発展阻害要因をしっかりと認識し、閉塞的な社会状況を打ち破る重要なカギが、社会的なジェンダーギャップ解消に向けた社会変化を模索努力する過程の中にあるといえるだろう。北欧諸国の先進的な発展モデルを十分参考にしながら、歴史的な男性中心社会による成経済長の限界、社会経済活動の制約を乗り越えて、価値観の変化を重ねつつ、格差のより少ない多様性に富んだ社会の実現のために、男女ともにその力と固有の能力を十分に発揮できる社会の実現がが待たれる。