中小企業の新陳代謝
中小企業庁によれば、2014年に約380万社あった中小企業・小規模事業者数は2016年には約358万社となり、ここ数年、年間4万社以上の企業が休廃業・解散しているが、このうち半数以上は黒字企業である。ここに来てコロナ禍の影響も加わり、今年は年内に休廃業する会社が5万社を超えると見込まれている。かつては日本経済の発展を支える広い裾野・土台と言われた中小企業に対する政策もここに来て変化する兆しを見せている。債務超過企業も多く、本来補助金・助成金・緊急支援のセーフティーネット融資なしでは存続出来ない企業も数多く存在しており、付加価値・生産性の低い中小企業の退出・新陳代謝はやむなしという議論に傾きつつあるようだ。
存続か廃業か
昨年来の消費増税の影響で売り上げが低迷しているところへ、新型コロナウィルスの影響は終息に時間がかかるとの見方が大勢である。終息する兆しが見えはじめ、経済活動の規制を緩和すれば、再び流行拡大するという、まことに厄介な代物である。ワクチンの普及効果が見込めるようになるにはまだ遠く、先の道のりは長い。このような不透明な先行きを案じて、コロナ対応緊急融資などの借り入れを行い、とりあえず企業を存続させるのか、体力のある内に企業の休廃業を決断するのか、コロナ禍が弱った中小企業に存続か休廃業かの究極の決断を迫っている。
高齢化する中小企業経営者
2017年の経済産業省の試算によれば、25年には経営者が70歳を超えるに中小企業が企業全体の6割を超え、245万社に達するという。その半数以上の中小企業は後継者が未定であるという。このまま続くと25年までにGDPの約22兆円、約650万人の雇用が失われるという(日経ビジネス8/31)。
中小企業の後継者難
少子高齢化で家業を継ぐ子供が少ないのは事実であるが、家業を継ぎたくない理由としては「親の苦労を見てきたから」とかいろいろあるだろう。具体的には「残業が多く、労働環境が悪く、給与水準も低い。将来性が見えない、人手が集まらない、商品・サービス・技術開発などに多額の資金が必要。資金調達、金融取引に経営者保証が必要」などが代表的な理由だろう。また、株式を譲り、代表者にするにはどうしても血縁・身内からの選択となってしまうが、それだけでは事業継承は終わらない。事業の継承には周到な準備期間が必要であり、数年を要する。
中小企業の付加価値・生産性の低さ
日本経済の低成長に対する主たる要因分析の論調としては、デジタル投資の遅れの目立つ中小企業の付加価値・生産性の低さにあり、産業構造の変化、特にサービス産業の割合がさらに高まり、すべての産業のIT化が進行するなかで、デジタルデバイド、後継者難、生産年齢人口の減少による人手不足などは、直面する諸課題をうまく乗り切れない中小企業に集中的に表面化しており、有効な即効性のある解決策に乏しいのが現状である。
経済社会の変化、働き方の変化
- コロナ禍によりテレワークが過密な都会から地方への分散する流れが、今後さらに広がる
- 労働時間の短縮、同一労働同一賃金による非正規化の拡大
- 大企業中心にメンバーシップ型からジョブ型への移行による雇用形態の流動化促進
- 世代間のIT環境・教育・訓練機会の格差⇒高齢者に優しいIT環境・ソフトの開発必要
- 65歳以上の高齢者の約4分の1が就労しており、今後もこの比率は上がる
- IT化の波に乗れない中小企業にいかに具体的に手をさしのべるか
⇒IT弱者の中小企業・高齢経営者のリカレント教育・コンサルタント・アドバイサーが必要
中小企業の新陳代謝は時代の流れであるが、同時に大きな損失
今まで培った技術、営業ノウハウ、仕入れ・取引先とのネットワーク、雇用を通じた地域への貢献、商工活動に関わるすべての関係者の利害調整・潤滑油的な役割を担ってきた経営活動など、地域と人の繋がりを大事にしてきた中小企業が減少することは、社会的に大きな損失である。大企業中心の経済効率を追い求めた結果、核家族化、社会からの孤立を深める高齢者世帯、女性の就労率の高まりによる子育て世代の疲弊、片親家庭などの困窮化、給与所得者の実質可処分所得の低迷など、これらの困難な課題の実際的な受け皿・緩衝材・セーフティーネットの役割を果たしてきたのが、中小・零細企業なのである。事業承継・M&Aの身近で具体的なアドバイザーが切に求められている。